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 欧州の政治家といえば、多くの人が思い浮かべる筆頭格だろう。ドイツのメルケル首相は2005年の就任以来、強い安定感と指導力を誇ってきた。

 その欧州を代表する「顔」が近い将来、政界を去る意向を発表した。来月にドイツ与党の党首を辞し、首相職も21年までの任期を最後にするという。

 12月にある新党首の選出などの状況次第で、首相の座をもっと早く去るかもしれない。ドイツと欧州全体が、政治の重しを失う「メルケル後」に向けて関心と不安を交錯させている。

 新党首が誰になっても、メルケル氏ほどの統率力を期待するのは無理だろう。近年のドイツで続く難民・移民をめぐる論争は収まらず、波乱含みの政治が続く見通しが濃い。

 いまの連立政権を組む左右の中道勢力は支持を落とし、新興右派と左派とに世論の両極化が進んでいる。それが最近の州議会選挙ではっきりした。

 メルケル氏の強みは、現実と理念のバランスをとりつつ合意を築く巧みな中道政治だった。それが限界を迎えたことは、ドイツも米英など他の主要国と同様に、国民分断の危機に立たされた現実を映している。

 大衆扇動に走る新興右翼などの台頭と中道の衰退は、欧州各地に広がっている。イタリアでは今年の総選挙で、右派とポピュリスト政党が政権に就いた。9月のスウェーデンの総選挙でも右翼政党が躍進した。

 共通するのは、移民・難民問題とともに、欧州統合への反発である。長年をかけて築かれた一つの欧州の構想が、いまほど揺らいでいるときはない。

 とりわけ来年、試練は深まる。欧州連合(EU)からの英国の離脱は3月末に予定されるが、いまだに離脱の条件は合意されていない。イタリアは規律に反する財政赤字を伴う予算案を示し、EUと対立している。春には欧州議会選もある。

 この状況で、欧州最大の経済大国ドイツが内向きな政治に転じれば影響は計り知れない。たとえメルケル氏が引退しても、欧州の安定と統合を担うドイツの重責には停滞する余裕もないことを自覚してもらいたい。

 国際社会も、法の支配や人権・多様性などの原則の守り手をこれから、誰が引き受けるのかという問いに直面している。

 トランプ米大統領の自国第一主義が鮮明になったとき、メルケル氏は「もはや誰かをあてにする時代は終わった」と喝破した。その言葉はいま、メルケル氏に多くを頼ってきた世界にも投げかけられている。

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