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 日本の抱える様々な課題が最初にあらわれる「地方」。その動きを十分に伝え切れているか――。朝日新聞社は「あすへの報道審議会」=キーワード=第8回会合を10月19日、東京本社で開いた。「ローカル報道のこれから」をテーマに各地からの報告をまじえ、パブリックエディター(PE)4人と本社編集部門が、全国紙の役割やデジタル時代の可能性を話し合った。

 <パブリックエディター>

 ◇河野通和(こうのみちかず)さん ほぼ日の学校長、編集者。1953年生まれ。

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 ◇小島慶子(こじまけいこ)さん エッセイスト、タレント。1972年生まれ。

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 ◇湯浅誠(ゆあさまこと)さん 社会活動家、法政大教授。1969年生まれ。

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 ◇山之上玲子(やまのうえれいこ) 朝日新聞社員。前・編集担当補佐。1962年生まれ。

 ■地方は課題の先進地 ゼネラルエディター(GE)兼東京本社編集局長・佐古浩敏

 ローカル報道には二つの役割がある。地域のニュースを地域の読者に届けることと、地域の外、全国や世界に伝えることだ。地域のニュースを紙の新聞で地域外に伝えるには、地域面ではなく国内外のニュースが集中する全国版に載せる必要がある。

 私たちは、あるニュースを地域の外に発信する際に他地域の人にも我がこととして関心を持ってもらえるかという普遍性と、より多くの読者に読んでもらえるかという共有性の観点を大切に考えている。

 地方が「課題先進地」と言われて久しく、高齢化や外国人技能実習生問題など社会や政治の課題は、都市部に先がけて現れる。地域で取材する記者たちが各地の情報を集め、解決に向けた取り組みや成功体験を報じることも全国紙の果たすべき役割の一つと考える。「束ねる力」を存分に発揮したい。

 デジタルによって地域の外に発信できるニュースの量は飛躍的に増えたが、そのままニュースがよく読まれるということを意味するわけではない。

 これからの記者は、その地域の読者に発信するだけでなく、全国の読者に伝える「特派員型」の仕事がいっそう求められる。

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 1987年入社。東京本社地域報道部長、政治部長などを経て現職。63年生まれ。

 ■全国掲載の基準、東京目線では/地域の中に今日的テーマある

 小出大貴・宮崎総局記者 宮崎県の山林が所有者に無断で伐採されてしまう「盗伐(とうばつ)」問題を取材した。戦後に植林した日本の山の中で、温暖な宮崎は樹木の成長が速く、全国に先駆けて伐採期を迎えている。「宮崎で起きていることは近い将来、全国の山でも起こりえる」と気付き、他県の事例も取材して、記事は東京本社や名古屋本社などが発行する紙面にも掲載された。

 掲載まで約1カ月半かかり、地方の記事が全国版に載るハードルは高いと実感した。

 湯浅誠PE 最近の地域面を見ていると、全国版にあっていいと思う記事が散見された。例えば、神奈川県の中学校の給食実施率は全国最低だったが、県内で実施に転じる自治体が増えているという記事。子どもの貧困対策に給食が注目されているのだという。給食は地域差が大きいだけに、全国的にも関心が高いのではないか。こうした記事など、あまり全国版に載せ切れていない印象だ。

 長谷川学・名古屋本社編成担当部長 どの記事を全国版に採用するかを判断する編集者の立場から言えば、日々、ニュースはあふれるほど届くが、紙面のスペースには限りがある。読者の関心を考えて、優先順位をつけなければいけない。

 河野通和PE 先日、現場の記者と意見交換をするため、富山総局を訪ねた。「立山」「ライチョウ」「ホタルイカ」のどれかの話であれば、全国版で扱ってもらいやすいと言っていたのが印象的だった。

 気賀沢祐介・東京本社地域報道部長 山梨や静岡なら「富士山」というように、キーワードを持っている地域は全国発信しやすい面がある。いずれも全国の人の関心が高い話題だからだ。

 湯浅PE 全国版に載せるかどうかの判断が、キーワードで決まってしまっていいのだろうか。しかもそれは「東京目線」による基準では? 東京にいる人が重要だと思うニュースが、全国の人にとっても同じ重みを持つとは限らない。むしろ地方には東京の価値観を問い直すような事象があり、それを記事化することが全国の利益にかなうことも多いはず。東京がいかに「東京目線」に自覚的になれるかが重要だ。

 奥田晋也・東京編集センター長 人数が多い首都圏の読者を意識することはある。しかし、ホタルイカなどのキーワードがなければ読まれないとは思っていない。東京目線と言われるような固定観念にとらわれず、読者が求めているのは何か、常に考えなければと思っている。

 小島慶子PE 富山県は共働きが多く、女性は家事も仕事もと負担が大きいという。これからの課題は家事をいかにアウトソーシングするかだと聞いた。これは全国から見ても非常に今日的なテーマ。そんなニュースを発信するのも全国紙の役割だろう。特産品以外にも全国ニュースはある。

 山之上玲子PE 全国に伝えることを意識するあまり、地元に背を向けてしまうことのないよう願っている。「地域とともに考える」姿勢がなければ、世の中からは信用されない。朝日新聞は身近な課題の解決を模索する報道をめざしているが、そうした報道も当事者がより身近にいる地方でこそ進めやすいと思う。

 ■デジタルニーズにどう応える/課題解決へ、先取りする記事を

 坂田達郎・甲府総局次長 山梨版で掲載している企画「それ行け!やまなし探偵団」はデジタルでも配信され、思わぬ反響があった。転勤してきた記者が山梨で不思議に思ったことを深掘りする企画で、全国紙の記者ならではの視点が生きたのだと思う。記者自身が心から面白いと思って取り組むのが大事。日本で最初のムスリム霊園が山梨にあることを取り上げた記事では、イスラム教徒の人権をめぐる論争がネット上で展開された。

 大西滝子ソーシャルメディアエディター 地域ニュースはデジタルで非常によく読まれている。デジタル編集部は現在、朝日新聞デジタルに加えてヤフーニュースにも月3千本の記事を配信している。朝日が出した地域ニュースのヤフーでの閲覧数は一般的な速報記事の約1・5倍だ。編集者が厳選して、よそにはない記事を気合を入れて出している。

 奥山晶二郎ウィズニュース編集長 地域ニュースが読まれるのは、登場人物の視点が身近に感じられるからだと思う。デジタルニュースに対するニーズは高まっているが、今の総局の状況では頑張る人ほど仕事が増えて苦労してしまう面がある。人員に限りがあるなかで、新しいことをやる以上、選択と集中が求められているんじゃないかなと思う。

 気賀沢・地域報道部長 地域面に向けて毎日、記事を書いている総局では、紙の新聞を中心に仕事が回っているところがある。省力化も進めているが、一朝一夕にはいかない。試行錯誤しつつ、答えを見つけていけたらと思っている。

 内屋敷敦・松山総局長 若手の考え方は既にデジタルに軸足を置いている。松山総局では、なるべくゆとりを持ってデジタル向けの取材ができるよう、四国や瀬戸内など文化圏が共通する地域面で互いの記事を載せ合う工夫をしている。

 現場を預かる者としてはその話題は誰に読んでもらいたいのか、それにふさわしい手段で届けられているか、自問自答している。

 山之上PE 一番考えなければならないのは、誰に向けて、何をどう書いていくのか。取材者の人数では地元紙にかなわなくても、全国紙の記者だから気がつく視点や厚みを加えた記事であれば、どこに住む人にも興味深く読んでもらえると思う。

 佐古GE 将来の都市部の課題を先取りした動きが各地で起きている。感度良く反応し、そうした波頭、兆しをしっかり報じていかなければならない。

 湯浅PE 目利きの力が大事になるということだろう。東京には国の意思決定機関があるが、それぞれの現象は地方から起きている。これからは、地方にいて、一歩先を行く各地の問題を中央に対して提起できるスペシャリストの記者が求められるのではないか。

 小島PE 地方総局では、全国紙の記者は数年で異動しているようだ。記者が出身地で長く勤務してその地域の知恵袋になり、若い人がそこで修業するというやり方もあると思う。

 河野PE 課題先進地としてではなく、課題克服の先進地としての地域も、読者の切実な関心の対象になりつつあると思う。各地の読者の問題意識を刺激し、課題解決に向けて先取りしていく記事は全国紙だからできること。今後のローカル報道を考えるうえで、そうした観点を入れてほしい。(司会は夏原一郎パブリックエディター事務局長)

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 小さな島で地域の課題を「自分ごと」として考える高校の授業の記事に驚いた。未来に希望がもてる社会につながるように思えて力をもらった。

 (東京都・石原千有沙さん 19歳 大学生)

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 地域面が貧弱だと思う。地元のニュースを楽しみに待っているが、多くは終わった催しの紹介だ。新聞を見て「行ってみたい」と興味を持つ人もいると思う。

 (愛知県・吉原保さん 69歳 介護相談員)

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 各地域ならではの取り組みをもっと知りたい。狙いや途中経過、修正点、こうして失敗したので次はこうする、などのプロセスにも関心がある。

 (兵庫県・重藤郁子さん 41歳 契約社員)

 ■紙面・デジタルで全国・世界へ発信 西村陽一・常務取締役(東京本社代表・コンテンツ統括・編集担当)

 地方はニュースの宝庫だが、紙媒体だけの時代はなかなか全国版に載りにくいという制約があった。しかし、デジタル時代を迎え、たとえば熊本発の「本会議 子連れに『待った』」という記事のように、最近は地域発ニュースが県境どころか国境を軽々と越えて海外メディアに取り上げられる例が増えてきた。

 私たちは地域発ニュースを紙面と様々なデジタル媒体に載せて、地元だけにとどまらず全国と世界に発信していきたい。外国人実習生やインバウンド、森林資源など各地の現象を社会課題の先行例としてとらえたり、全国規模の問題になる前に把握したりするのは全国紙の強みといえる。防災・減災や復興の分野などで各地のニュースをつないだり地域横断型に相互活用したりすることを機動的にできるという利点もある。

 地域をまたぐニュースの中に日本の将来や世界の今につながる要素を発見する眼力をつけたり、その発信にデジタル表現の工夫を凝らしたりすることは全社的な課題だ。

 ◆キーワード

 <あすへの報道審議会> 「ともに考え、ともにつくる」という目標に向けて、社外の声を報道に生かすために開く。朝日新聞社に寄せられた意見をふまえ、「読者代表」としてパブリックエディターが本社側と議論する。

 ◆文中では紙面モニターを務めて下さった方の中から、3人のご意見を紹介しました。

 ◆朝日新聞デジタルの特集ページ「あすへの報道審議会」(http://t.asahi.com/jsks別ウインドウで開きます)でもお読みいただけます。

 

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