(社説)米中貿易紛争 歩み寄る糸口あるはず
アジア太平洋経済協力会議(APEC)が四半世紀の歴史で初めて、首脳宣言を採択できぬまま閉幕した。
貿易問題をめぐる米国と中国の溝が埋まらなかったためだ。議長を務めたパプアニューギニアの首相は、会議が両国に振り回された様子を、「議論をした部屋には2人のビッグガイ(大国)がいた」と表現した。
米国は、世界貿易機関(WTO)は機能不全に陥っており、改革は避けられないことを宣言に書き込むべきだと主張した。中国が国有企業に巨額の補助金を出していることや、外国企業に技術移転を強要していることに、WTOが対応できていないとの不満が背景にある。
一方、中国は「APEC地域の範囲を超えている」などとして、WTO改革を盛り込むことに反対。米国を念頭に、「一国主義や保護主義と対抗する」といった表現を入れるべきだと求めた。
米国が求めるWTO改革も、中国の保護主義批判も、ともに一理ある。自由で公正な貿易を進める観点から、宣言の文言で折り合うことはできたはずだ。それができないほど、両国の対立は根深いのだろう。
妥協点を探るうえで、米中に次ぐ経済大国の日本が果たすべき役割は、大きい。
安倍首相は今回、「自由で公正なルールの進化、多角的貿易の要であるWTO改革にもしっかり取り組む」と述べた。「来年はG20(主要20カ国・地域)の議長国で、主導的役割を果たす」とも宣言した。しかし会議閉幕を待たずに帰国し、存在感は薄かった。
米国のトランプ大統領は今回のAPECを欠席し、代わりにペンス副大統領が出席した。「アジア軽視」に見える行動は批判されて当然だ。
米中は3度にわたって制裁・報復関税をかけあっており、対立を解く糸口は見つかっていない。11月末に予定される首脳会談がまさに正念場だ。貿易紛争を解決に向かわせる一歩としなければならない。
米国はまず、自国第一を振りかざすのをやめ、話し合いで問題を解決する姿勢を見せる必要がある。中国も、知的財産権の問題などで経済政策をどう変えていくのか、具体的に説明するべきだ。
中国は南シナ海で軍事拠点化を進め、人権問題もあり、米国との間で対立点は多い。しかし、人、モノ、カネは国境を越えて自由に動く時代だ。貿易紛争は、政治問題とは切り離して決着することが求められる。
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