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 「きょうは悲しい日だ」

 欧州連合(EU)のトップは、そう漏らした。英国が欧州の一つ屋根から離れていく。その条件をめぐる協定案などが今週、正式に合意された時だ。

 現実には、英国もEUも、悲しんでいる余裕もない。離脱の期日まで4カ月。それまでも、そしてその後も、越えねばならぬ高いハードルが数々ある。

 直近の焦点は、英議会と欧州議会の双方がこの協定案を承認できるかどうかである。とりわけ英議会では反対が多く、承認の見通しが立っていない。

 英国政界に熟考を求めたい。ここは、英国が国際秩序の安定に寄与する主要国の地位を維持するか、それとも、世界の不確実性を高める自国第一主義の国になるかの分岐点である。

 英国と欧州を超えて広く混乱をおこしかねない「合意なき離脱」は避けねばならない。そのための良識ある選択肢を練り上げるよう英議会に望む。

 メイ政権とEUとの間で1年半近くに及んだ交渉の合意は、主な対立点の解決を先送りした。来年3月末の離脱後に設けた移行期間内に解決できない場合、実質的に英国全体が欧州の関税同盟に残り、EUのルールに従う可能性を示した。

 協定案とともに合意した政治宣言では、英国が望んできた自治と移民制限の尊重が盛り込まれている。英国とEUが歩み寄った現実的な妥協案だ。

 だが英側の強硬派は「屈辱」「主権を取り戻せ」と反発している。自らのナショナリズムを叫びつつ、EUとの結びつきによる経済的な恩恵は続けたいというのではムシがよすぎる。

 各国共通の利益をめざす欧州統合の精神に背を向けたのは、英国自身である。離脱交渉が難航したのも、与党・保守党内が分裂した英国の事情が主因だったことを自覚すべきだ。

 英議会では12月にも採決が予定される。否決となれば、無秩序離脱へ一気に近づく。与党では、強硬派によるメイ党首の不信任手続きの動きがくすぶり、一方の野党労働党には解散総選挙へ進めたい思惑がみえる。

 政治の分断と機能不全はいまや国際的な現象だが、これから数カ月内の英国の決断は世界にとって極めて重い。メイ首相は時計をにらみつつ、粘り強く議会を説得する必要がある。

 今週のEU会議では、複数の国の首脳が英国との緊密な関係を求める発言をした。離脱の行方にかかわらず、欧州と英国は同舟の運命にあるとみる歴史の知恵だろう。その期待にこたえる英国の雅量をみせてほしい。

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