[PR]

 生まれてくる子どもを実験の道具にしたとしか思えない行いだ。断じて許されない。

 遺伝子を狙ったとおりに改変する「ゲノム編集」にかかわる科学者らの国際会議で、中国の大学副教授が、エイズウイルス(HIV)が感染しないように遺伝子を操作した受精卵から双子が生まれたと発表した。

 事実だとすれば前例はない。人の手が加えられた遺伝子が、その子本人や子孫の世代にどんな影響を及ぼすのかは予測不能だ。どんな場合であれば認めて良いか、社会全体はもちろん、科学者の間でも合意は形づくられていない。

 そんな状況下で、どのようにして被験者を募り、同意を取りつけたのかもはっきりしないまま、子の誕生が唐突に公表された。およそ想定していなかった事態に、世界中から厳しい批判が寄せられたのは当然だ。

 まず、この副教授が籍をおく大学、病院、中国政府の担当機関が中心となって経緯や事実関係を調べ、社会に説明する責務がある。科学界としても、国籍や立場を超えてこの検証作業に関与して、問題の所在を明らかにしなければならない。

 ゲノム編集の研究は以前から行われてきたが、12年に簡便な技術が開発され、転機を迎えている。15年には先行する米中英3カ国の科学者団体が中心となって会議を開き、無秩序な適用や広がりに一定の歯止めをかけようとしてきた。

 受精卵を使った研究に対する各国の取り組みは様々だ。

 日本は近く国の指針により、基礎研究については認めるが、受精卵を胎内に戻すことは禁ずる方針だ。中国は妊娠目的での受精卵の遺伝子改変を国の指針で禁止し、仏独は以前から法律で厳しく規制している。

 米科学アカデミーなどは昨年、重い遺伝性疾患が子に伝わるのを防ぐ場合に限り、有効性や安全性が確認されるなどの条件を満たせば臨床応用を認めるとする報告書をまとめた。

 今回の副教授の行為は、この条件をも満たしておらず、容姿などに関する遺伝子を親の望むように変える「デザイナーベビー」の発想に近い。

 こうした「暴走」は結果として科学への不信感を深め、研究の進展を遅らせる。その意味でも無責任というほかない。

 どんな規律をつくり、いかにしてそれが順守されるようにするか。科学界は大きな課題を突きつけられた。日本の研究者、学会、政府も同様だ。議論を急ぎ、社会の理解を広く得られる道を探らなければならない。

こんなニュースも