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 こんな前代未聞の事態がなぜ起きたのか。

 産業革新投資機構の田中正明社長ら代表取締役4人と、社外取締役5人が辞意を示した。立ち上げた傘下ファンドも清算するという。2兆円規模の官民ファンドが、発足から3カ月もたたずに頓挫したことになる。

 経済産業省は、文書で示した高額報酬の制度案を、機構側が取締役会で決めた後になって一方的に撤回した。田中氏らは「経産省による信頼関係の毀損(きそん)行為」であり、「日本が法治国家でないことを示している」と批判した。国が裁量的に口出ししてくるようなファンドになったと見限ったのだろう。

 世耕弘成経産相は「政府内で確定しているわけではない報酬案を紙でお示しした事務的失態については、深くおわびする」と述べている。過ちを認めつつも、必ず「事務的」と限定をつけるのは不可解だ。

 経産省は昨秋以来、「リスクマネー供給」について有識者を集めた研究会を開催。それを踏まえて産業競争力強化法を改正し、鳴り物入りで機構を設置した。当初の報酬案を示したのは、局長としてその先頭に立ってきた幹部である。それを突然撤回したことを、単なる手違いで片付けるのは無理がある。

 問題の根幹は、政府内の調整過程が不透明で、どこで何が決まっているのかが外部に見えにくいことだ。機構の運営を阻害しただけでなく、国民への説明責任も軽んじている。なぜ方針が揺れ動いたのか、いまだに納得できる説明はない。

 経産省は機構の立て直しを図るというが、難航は必至だろう。避けるべきなのは、不振企業の延命や、有効性の定かでない政策のための便利な「財布」として使われることだ。既存の官民ファンドにはそうした例が目立ち、整理と責任の明確化が問われていた。その愚を繰り返してはならない。

 官民ファンドは、そもそも性格があいまいだ。国の資金を使う以上、政策効果や収益性、報酬制度などを含め国民への説明責任は重い。一方で政府が頻繁に介入すれば、意思決定が遅れ、成果も望みにくくなる。

 そこにどのようなバランスを取りうるのか。その難題に挑んでまで期待すべき働きがあるのか。機構を存続させるのであれば、今回の事態も含めて十分に検証し、国民に納得のいく説明をすることが不可欠だ。

 「事務的失態」の名で役人のミスに問題を矮小(わいしょう)化することは許されない。世耕経産相は自らの責任を自覚すべきだ。

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