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 「その時」に市民や自治体、企業はどう動くべきか、国が大きな方針を示したことは評価できる。だが詰めるべき課題はあまりに多く、かつ難しい。

 南海トラフ地震の可能性が高まった時に備え、政府の中央防災会議が報告書案をまとめた。

 現在の知見では地震発生の時期や場所の予知はできないが、先触れの異常現象ならば把握することができるかもしれない。その際、政府が発表する「臨時情報」に、社会がどう対応するかが課題になっている。

 報告書案は、震源域の東西どちらかでマグニチュード(M)8級の地震が起き、残りの側でも続く可能性がある「半割れ」や、震源域の一部でM7級の地震が発生する「一部割れ」のケースなどを想定した。

 半割れの場合、被害が出ていない地域の住民も津波に備えて約1週間避難する。地震から30分以内に30センチ以上浸水する地域が対象だが、それ以外のところでも、お年寄りや障害者には避難を促すとしている。

 一番心配なのは、広範囲に及ぶ避難が順調に進むかだ。渋滞が予想されるなか、誰がどんな手段で人々を誘導するのか。逃げる先の施設をいかに確保するか。難題が次々と浮かぶ。実務を担うのは市町村だが、膨大な作業となるのは必至だ。

 政府は今後、自治体向けに手順を示した指針をつくる。丸投げにならぬよう、できるだけ具体的な内容にしてもらいたい。避難所の規模や収容人数、用意しておく物資など、きめ細かな手引があれば、それを土台に独自に検討を深められる。

 避難が「空振り」に終わることも十分考えられる。強制ではないものの、この間、鉄道や漁業を始めとして多くの活動が制限されることになる。早くも疑問や不満の声が出ているが、ここは命を守ることを最優先に考えるべきではないか。

 「1週間」についても様々な意見があるだろう。専門家の調査によると、世界で起きた103の巨大地震のうち、1週間以内に隣の地域でM8級以上の地震が観測された例が七つあるという。とりあえず「特に警戒が必要な期間」として、認識を社会で共有することが大切だ。

 政府は引き続き、丁寧な説明と周知に努める必要がある。住民や企業も、情報の意味を正しく理解しておきたい。

 避難期間が過ぎても、地震は1カ月後、1年後に起きる可能性はある。大切なのは警戒しながら日常生活を送ることだ。命となりわいのバランスをとる、社会の知恵が試される。

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