[PR]

 ■早稲田大×朝日新聞

 急速なグローバル化や技術革新によって、世界を取り巻く環境はかつてないスピードで大きく変化している。そんな時代に、日本の大学や企業が国際競争力を高め、地球的課題を解決して世界に貢献するには、どんな人材をどう育てればいいのか? 「朝日教育会議2018」の第9回は、グローバルリーダー育成を目指す早稲田大学。総長に就任したばかりの田中愛治氏が経済人らと意見を交わした。【東京都中央区の東京証券会館で11月15日に開催】

 ■基調講演 「答えなき問題」「多様性」に向き合う 早稲田大学総長・田中愛治さん

 10日前の11月5日に第17代早稲田大学総長に就任した。「大学院教育を全て海外で受けた」「主要な国際学会の会長を務めた初の総長」といった点で、私は早稲田の総長としては新しいタイプだと思っている。

 このような経験を積んできて「国際的に競争できる人材の育成」こそが、今後の日本のリーディング大学の課題だと考えている。

 日本の競争力指数は1989年にトップだったが、急激に衰退して2018年は25位(63カ国・地域中)。多くの国が右肩上がりの中、日本は右肩下がり。引用される回数が多い論文数からみる「研究力」も、日本は80年代からずっと横ばいだ。

 グローバルに活躍する人材を育成するためには「たくましい知性」と「しなやかな感性」の二つが重要だと考える。

 戦後の日本には米国という明確な目標があり、「答えのある問題」に対応できる人材が求められた。その後、目標を達成し、世界経済が混迷を極める中、「答えのない問題」に挑戦する力を育み、鍛える「たくましい知性」が必要だ。

 「しなやかな感性」は多様性を受け入れること。異なる性別や国籍、言語、宗教の人々に敬意を持って接し、考え方や価値観を理解する感性を養い育てることが求められている。

 こうした教育環境を提供するため、今こそ日本のリーディング大学は世界のトップクラスになる「覚悟」を決め、関係者全員が共有すべきだ。その際最も重要なのが、教員も職員も「自分より優れた人材」を採用することだ。私自身も日頃から学生たちに「私を超えろ」と言い続けている。

 教育面では、教育基盤や教養教育の整備が必要。早稲田ではグローバルリーダーとして世界に貢献できるよう、人間的力量を育成する教育プログラムを多数整備している。

     *

 たなか・あいじ 早稲田大学総長 1975年早稲田大学政治経済学部卒業。85年米オハイオ州立大学大学院修了、政治学博士(Ph.D.)。東洋英和女学院大学、青山学院大学、早稲田大学政治経済学術院教授等を経て現職。2006年から教務部長、理事、および世界政治学会(IPSA)President等を歴任。

 ■プレゼンテーション 価値観打ち立て、変化恐れるな 武田薬品工業相談役・長谷川閑史さん

 私が考える「グローバル時代の日本に求められる人材像」について話したい。

 まず「大局観、世界観を持つ」こと。世界的な潮流を理解し、日本や企業の立ち位置、克服すべき課題を考える。そのためには大学在学中に少なくとも1年間は海外に留学し、見聞を広めていただきたい。

 グローバル化や技術革新の進展によってもたらされる第4次産業革命が、どのような影響を与えるのか。まだよく分からないが、大きなインパクトであることは間違いない。そのような不確定な時代に求められる心構えが、「変化を受け入れる、恐れない」ことだ。環境変化に対応せずに何もしないことは最大のリスクである。

 「多様性と包摂力を大切にする」ことも大事だ。多様性の中で「衝突」も起こるが、それを「創造」に結びつけていく。そして「こうありたいという強い願望やビジョンを持つ」こと。組織に依存しない一人のプロフェッショナルとして何を成し遂げ、どんな貢献をしたいのか。常に問い続けて5、10年後に落とし込んで実現していく。

 そして「危機管理と変革」。リスクを避けるのではなく現状を大胆に変革し続ける。最後に、最も大事なことが「誠実・高潔・清廉」。より良い社会にするために一人ひとりの価値観を打ち立てる必要がある。

     *

 はせがわ・やすちか 武田薬品工業相談役 1970年早稲田大学政治経済学部卒業後、同社入社。2003年社長、14年会長、17年相談役に就任。経済同友会代表幹事、東京電力ホールディングス社外取締役、産業競争力会議民間議員などを歴任。早稲田大学常任理事(学外)。

 ■プレゼンテーション 人のつながり、機械は代われぬ 世界経済フォーラム日本代表・江田麻季子さん

 世界経済フォーラムは、官民両セクターの架け橋の役割を担う国際機関。より良い未来を構築するため、地球規模課題の解決を目指して、研究機関として数多くの報告書を発表。また世界のリーダーが連携できる場も提供している。

 第4次産業革命も課題の一つ。「革命」と呼ぶのには理由がある。単なる技術の進化ではなく、全ての分野で人類が体験したことがないスピードで変革が起こっているからだ。

 人工知能(AI)は私たちの仕事を奪うか。現在、仕事の71%を人が担っているが、2025年までに機械が人より多くの作業を行うだろう。一方でネット関連などの新しい仕事が創出されると予測されている。

 どんな仕事が生まれるか分からない時代、大切なのが「マインドセット」(物の見方、考え方)。好奇心や情熱によって新しい発見をし、洞察力のある問いができる。人とつながる力も重要だ。人を巻き込んだり、他の人から学んだりする力は機械に置き換えられない。

 最近よく言われる「多様性」には2種類ある。性別や年齢などの「先天的な多様性」と、勉強や経験など自分の力で養える「後天的多様性」だ。先天的な多様性だけを見てしまうと型にはまりがちだが、様々な経験を持った人が集まって個性が生かされる組織になれば、よりグローバルな競争にも対応できると思う。

     *

 えだ・まきこ 世界経済フォーラム日本代表 1988年早稲田大学第一文学部卒業。米アーカンソー州立大学大学院修了後、米国の大学病院などでマーケティングに携わる。帰国後、2000年インテル日本法人入社。香港勤務などを経て、13年10月から18年3月まで同社社長。18年4月から現職。

 ■パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、グローバル時代に求められる人材像などについて、3人が意見交換を行った。(進行は藤えりか・朝日新聞be兼GLOBE編集部記者)

 ◆文理の枠超えて

 ――参加者からの事前質問で関心が高かったのが、田中さんが総長選挙で公約の一つに掲げた医学部創設。どのような道筋を描いているのか。

 田中 戦後の日本の大学教育における欠点の一つが理系と文系を分けて考えること。高校1、2年で「理系か文系か」を選択することになる。

 教養教育が人文系の教養と勘違いされているのも問題だ。物事の本質を見極める洞察力を持つには、幅広く学ぶことが必要で理系・文系を超える見方が大切だ。

 今日の医学部の教育にも研究にも、理学や工学との連携が必要となっている。これまで蓄積した患者のビッグデータをAIで解析することで、より迅速に、患者に必要な診療や処置を的確に判断することも可能になる。情報科学や様々な理工学の知見と医学が連携するという点で、総合大学の早稲田大学と組むことに意味があると考える医科単科大学とパートナーシップを組むことが「ウィンウィン」の関係につながると考えているが、具体的な相手は全く決まっていない。

 ――米国では、プログラミング教育が過熱する一方、最近は教養教育にも力を入れている。AI時代にヒューマンスキルが必要になってきた?

 江田 AIの時代だからといって、私たちがアルゴリズムを書く訓練をすれば乗り切れるのかというと、そういう話ではない。技術はどんどん進んでいくが、その使いようは人間が決めないといけない。様々な意見を取り込めるように議論して、人間が最終的に判断することが重要だ。

 変化が激しいときこそ、それを取り込むため、間口を広げておくこと。完璧にプランを立てようと思っても20年後のことはわからない。であれば、どのような事態にも対応できる力をつけておくのが得策だと思う。

 ◆企業の人材戦略

 ――日本の企業のグローバル化は進んでいるのか。

 長谷川 社長になったとき、グローバル化するのが使命と考えた。普通ならグローバル化に備えて人材を育成すればと考えるが、現実には極めて難しい。最低5~6カ国の経験が必要だし、企業内でもセールスやマーケティング、人事・総務などに加え、研究開発も分からないといけない。時間がかかる。「修羅場」を体験させる場が社内にまだないということもある。

 私が下した判断は、買収した会社との相乗効果を出すため、主要ポストに国際的な人材をもってくることだった。その人たちの仕事ぶりを部下の日本人が見て「ああなりたい」となれば、会社は全面的にサポートして次世代のリーダーを育てる。ベストとはいえないまでもベターな対応と考えている。

 ――社会人で海外を体験した人を受け入れる日本企業がまだまだ少ない。人材の海外流出につながっているのか。

 長谷川 人材の海外流出はあっていいと思う。世界では「タレント・ウォー」と言われるほど、優秀な人を世界中から集めようと採用活動をしている企業が多い。日本の学生は欧米だけでなく、韓国や中国、シンガポール、インドの学生たちとも競争している。自分の能力を生かせないと思うなら、より自分を買ってくれるところで力を発揮してほしいし、逆もあっていい。

 江田 私が大学を出た時、景気はよかったが、「女性は採りません」という時代だった。おそらく10年後には日本でも女性が総合職に就きやすくなるだろうと思ったが、「10年は待てない」「戻らなくてもいい」くらいの気持ちで米国に行った。

 経済界をはじめ日本の社会全体が、いろんな経験を持った人を受け入れることが「常識」となり、若い人が様々なことに挑戦できるような環境にしていくことがとても重要だと思う。

 ◆外の世界を知る

 ――海外経験の意義について若い人にメッセージを。

 田中 「外から日本を見てみたら社会が変わるよ」と言いたい。全く違う価値観に触れると、モノの見方も変わる。それが自分の世界も変える。早稲田にはボランティアセンターがあり毎年9千人が登録している。海外の、特に貧しい国に行った学生は社会貢献に対する意識が劇的に変わる。人生を豊かにすることを学生に伝えていきたい。

 長谷川 日本の経済成長は世界平均に到底追いつかないし、先進国の中でもG7で一番低い。この状況を考えると、これからの人たちには海外、特に成長している国に行き、日本のノウハウや知識を提供することで世界全体が成長していくことに貢献しながら、日本にも還元するという視野を持っていただきたい。

 江田 「自分が外国人である」ことを経験すると、細胞レベルで変われると思う。私自身も英語が分からなくて非常に落ち込み、授業についていけず大変な時もあったが、やっておいてよかったと実感している。ダボス会議(世界経済フォーラム主催の年次総会)のような場で地球規模の課題について堂々と議論する人になってほしいので、若いうちに行っていただきたい。

 ■少数者への想像力もって 会議を終えて

 生まれ育った国や地域を一歩出れば誰もが痛切に抱く感覚がある。自分もマイノリティーだという自覚だ。

 学生時代、初めての外国住まいを経験した米国で、英語が通じず習慣の違いにも苦労した折、はるかに大きな困難を越えて根を張る隣家のイラン系家族から受けた親切は忘れられない。彼らが移民に至った背景は、世界の多様さと複雑さを学ぶ入り口になった。

 グローバル人材となるには多様性を重んじ、答えのない世界への対応力を身につけること。だからこそ海外経験が大事――。今回、全員が異口同音に説いた。

 世界へ打って出る力となるだけではない。働く外国人の受け入れを広げる改正出入国管理法が成立した今、多様な外国人がよい形で暮らし、働く環境を整えるためにも大切な要素だ。

 現実の日本は、スイスの研究所の外国人材から見た魅力度ランキング調査で63カ国・地域中50位。同質性の極めて強い日本が「選ばれる国」となりたいならマイノリティーへの想像力は欠かせない。「選ばれない国」である限り世界の競争の波に乗るのも夢物語だろう。

 同調圧力は米国にもあるし、世界の多くは今、多様性とは逆を向いている。だからこそ、拙速ながら日本が国をさらに開こうとする今、世界を地続きとする視座を持てるかが問われている。(藤えりか)

 <早稲田大学> 1882年に大隈重信が創設した東京専門学校を前身とする。その歴史は、三大教旨「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」や「進取の精神」といった理念によって支えられている。国際化を進め、海外協定は93の国・地域の840大学・機関に広がる。昨年度は4439人の早大生が海外留学し、7476人の外国人学生が早稲田で学んだ。

 ■朝日教育会議

 国内外で直面する社会的課題への解決策を模索して広く発信することを目指し、15大学と朝日新聞社が協力して開催するシンポジウムです。今月16日まで、1大学1会議で開催します。各会議の概要は特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2018/別ウインドウで開きます)から。

 共催大学は次の通り。

 青山学院大学、神奈川大学※、神田外語大学※、関東学院大学※、京都精華大学※、聖路加国際大学※、拓殖大学※、中央大学、東京工芸大学、東京女子大学、二松学舎大学※、法政大学、明治学院大学※、明治大学、早稲田大学(50音順。※がついた大学は新聞本紙の詳報掲載は一部地域)

こんなニュースも