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 ■認知症とともに

 かつて認知症の人や家族の多くは、根強い偏見のなか、地域で孤立していました。しかし時代は変わり、本人が自らメッセージを発信し、住民や企業・行政が手を携えて一緒に暮らしていく地域をつくる動きが確実に広がっています。そんな現場の取り組みや声から、「認知症と共に生きるまち」の未来を皆さんと考えます。

 ■住民の理解と手助け不可欠

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

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 ●「情報番組で『認知症予防』というキーワードが出てくるたび、認知症の人が何だか忌み嫌われ、関係者が追い詰められないかと思えてなりません。(実母が認知症です)どんな病気でもかかりたくてかかりません。予防法や薬は大事とは思いますが、それ以上に認知症の人とのコミュニケーションの取り方を紹介してください」(大阪府・40代女性)

 ●「認知症だって、風邪や骨折と同じ。恥ずかしいことでも悪いことでもない。当事者たちが、認知症のことをもっと発信していくのが良いと考える。サポート態勢やサービスがまだまだ積極的とは言えないのは、生の声の発信が足りないからだと思う」(茨城県・10代女性)

 ●「住んでいる地域、住民の理解、手助けが何よりと思います。変わらない環境で住み続けることが大切なのでは。急によそよそしくなったり、ひそひそされたりしたくないですね」(愛知県・40代女性)

 ●「認知症と診断された時から、介護保険につながるまでの期間をサポートするシステムが必要。当事者の声に耳を傾け、偏見をなくし、認知症予防ではなく、『認知症になったら』というアプローチで、暮らしやすい社会のあり方を発信していくことが大切」(東京都・60代女性)

 ●「昨年、妻が認知症と診断され、投薬治療中。短期記憶力の減退が顕著、運転免許の返上に一番苦労しました。地域包括支援センターに相談するとともに、周辺の方々には正確に発症を伝え、フェイスブックでも毎日発信しています。老々介護ですが、まだ保険は使わず自助努力中の毎日です」(千葉県・80代男性)

 ●「訪問介護の現場で、長く生きすぎた、死にたい、といわれる高齢の方に出会います。役割を奪われ、生きがいを感じることができなくなっている。でも、どの方も豊かな社会経験、様々な知識と知恵を持っている。それをお聞きすることはとても興味深い。『頑張ってこられたんですね』というと、うれしそうにされます。『対話』する福祉が大切と思います」(京都府・50代女性)

 ■「常識の殻、破ろう」希望宣言

 先月、「認知症とともに生きる希望宣言」が公表されました。まとめたのは、認知症の本人が主体となる団体の先駆け「日本認知症本人ワーキンググループ」。「自分自身がとらわれている常識の殻を破り、前を向いて生きていきます」「自分の力を活(い)かして、大切にしたい暮らしを続け、社会の一員として、楽しみながらチャレンジしていきます」など5項目を掲げています。

 代表理事で、45歳でアルツハイマー病と診断された藤田和子さん(57)は「これは理想ではなく、私たちが体験してきた苦しみや悲しみの先に見いだした希望です。偏見が根強く声を上げられない人や、全国の自治体など様々な人に届け、よりよい社会を一緒につくる人の輪を広げたい」。窓口で宣言を紹介する自治体もあるそうです。公明党は9月に「認知症施策推進基本法」の骨子案を公表。同グループは、希望宣言を後押しする立法を期待しています。

 ■本人・家族ら、テレビ会議で交流

 認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)は、Zoomというインターネットのテレビ会議システムを使い、本人や家族らの新たな交流を始めています。「DFJI-Zoomカフェ」です。

 今月4日、週1回の定例会に記者も参加しました。東北から九州まで全国からアクセスがあり、続々と画面に顔が表示されます。参加者は20人、うち3人は認知症の本人です。

 このカフェの良さは? みなさんに聞いてみました。39歳でアルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さんは「顔が見える安心感」をあげ、「みんな友達。オーストラリアやカナダなど世界の当事者とも交流しています」と言います。若年認知症の夫を支える女性は「ここで初めて同じ境遇の人に出会えた。すごく心強い場所」。末期がんの母を介護するベッド脇から参加していたという女性は「『カフェ』がいやしでした」と振り返ります。進んだ取り組みの知恵を支援者らが共有したり、イベントの打ち合わせに使ったりもしているそうです。

 2017年8月に始めたテレビ会議はすでに240回超。「店主」を務めるDFJIの岡田誠さんは「『カフェ』では立場の垣根が消え、コミュニケーションの土俵が変わる。一般企業より認知症関係者がテレビ会議を活用する状況をつくれたら面白いですよね」と話します。DFJIのウェブサイト(http://www.dementia-friendly-japan.jp/別ウインドウで開きます)に案内があります。(編集委員・清川卓史)

 ■安心できる暮らし、探る 当事者と先駆者、東京・町田で「サミット」

 認知症の人や家族が安心して暮らせる地域であるためには、何が必要なのか。当事者だけでなく、様々な分野の先駆者が集まって話し合う催し「まちだDサミット」が先月、東京都町田市で開かれました。

 Dは認知症を意味する英語「Dementia」の頭文字。「認知症にやさしいまち」のイメージを具体的に持ってもらおうと、市が初めて企画しました。

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 <社会とつながりやすく> 「しごと」「交通」「金融」など九つの分科会では、駅長、コーヒー店マネジャーら約30人が取り組みを語り、意見を交わしました。

 「金融」の分科会では地元の郵便局長の杉山勲さんが、頻繁に通帳の再発行を求めるなど認知症が疑われる場合に対応できるよう、市内34局の職員全員が認知症サポーターを目指していると話しました。すでに約180人が受講、わかりやすい言葉で説明するなどの工夫で困り事の頻度が減ったそうです。「交通」の分科会では、職員が認知症の人を見守る英国のバスターミナルや、ホームで「駅カフェ」を開くなど外出を楽しんでもらう京都市左京区の取り組みなどの先進例が紹介されました。

 認知症の人が、それぞれに考える「やさしいまち」を語る時間も。「『こんにちは』『天気いいね』、そんな声がけがあると安心。自分からも言ってます。当事者が笑顔でないと」と伊藤春雄さん(80)。神矢努さん(66)は「本人の集いなど、行ける場があるのはいいね。一緒にお酒を飲むとか、楽しく過ごせると幸せだなあって思う」。そのほか、外出先で道がわからない時に気を使わず聞けるといい、仕事をしたい、ダイビングを始めた……。地域での日常生活から紡ぎ出される言葉に、約400人が耳を傾けました。

 町田市は、2015年から本格的に「認知症にやさしいまちづくり」に取り組み始めました。医療・介護の専門職が支援する体制づくりや、認知症サポーター養成講座などを開始。翌年からは、市内のスターバックスコーヒーで認知症の人や家族らが交流する「Dカフェ」を開いています。幅広い世代が訪れる店を会場にすることで、より当事者が社会とつながりやすくし、住民にも関心を持ってもらう狙いです。昨秋からは市内8店舗に広げ、年1度から月1度に。飛び入り参加するお客さんもいるといい、16~17年度の参加者は延べ600人超に上りました。

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 <自分のこととして行動> また「認知症にやさしい」というイメージが人によってバラバラにならないようにしようと、当事者や様々な分野の人の意見を聞き、16の文章からなる「まちだアイ・ステートメント」を昨春つくりました。「私は、しごとや地域の活動を通じてやりたいことにチャレンジし、地域や社会に貢献している」など、認知症の当事者の視点で、まちのあるべき姿を表したのが特徴です。市の担当者は「認知症を自分のこととして考え、行動できる地域づくりを続けたい」と話しています。(森本美紀)

 ◇来週23日は「認知症、前を向くために:4」を掲載します。

 ◇アンケート「認知症、あなたなら?」を18日までhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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