(フォーラム)カイシャの飲み会
忘年会シーズンもたけなわ。上司や部下、同僚らとのお酒の席が続く人も多いのでは。そんな「カイシャの飲み会」を9月にフォーラム面で取り上げたところ、多くの反響が寄せられました。その一部を紹介し、よりよい飲み会にするための心得を“お酒のプロ”に聞いてみました。
■目的決め前向きな場に
参加するなら楽しい飲み会にしたいもの。居酒屋チェーンやビール業界、そして働く人の事情に詳しい3人にお酒を片手に聞きました。
――近頃の「カイシャの飲み会」について感じることは?
栗原 家族との時間を大事にする人が増えました。特に郊外では平日より土・日曜が忙しい店が増え、家族連れで大にぎわいです。
氏家 転職を怖がらない人が増えたことで、上司に「参加しない」と言いやすくなっているのでは。
――働き方改革の影響は?
栗原 会社員の利用時間は短くなり、以前は午後7時~7時半から始まる会が多かったのですが、残業時間が減った影響で、1時間ほど前倒しになっている印象があります。
氏家 飲める時間は増えても残業代が減りましたからね。働き方改革が進めば、日常的な飲み会はさらに減りそう。感情を持つ人間が一緒に働く限り、懇親や慰労の場は不可欠です。そうした会は業務として費用を会社が出し、時間内にやる方向に変わるのでは。
――朝日新聞デジタルのアンケートでは、職場の飲み会に「行かない」「ほぼ行かない」という人が計3割超。愚痴やうわさばかりで嫌だという意見もありました。
兵頭 テーマを決めて、一人ずつ話してもらうのもいいのでは。
栗原 目的があいまいな会は、説教や愚痴ばかりになる傾向があるかも。一方、忘年会は目的は明確でも一年を総括しようとして愚痴が多くなります。「来年はこうしよう」と前向きな会になるといいですね。
氏家 先日ある神社で「飲み会がつらい。断りたい」と願掛けした絵馬を見ました。無目的に「取りあえず飲みに行くぞ」と上司に連れられていった先では、たいがい説教と自慢話。でも上司は部下を誘う場合は、「ホスト」として部下に気を使う責務があるはずです。
――「たばこの煙がつらい」「お酒が飲めないので楽しめない」という意見も多かったです。
兵頭 うちの会社では自然と吸う人は固まって座りますね。
栗原 以前看護師の方々の宴会で「夜勤を控えてお酒を飲めない人がいる」と相談を受け、30種類ほどソフトドリンクとノンアルコールカクテルを用意しました。店に相談してみると、工夫できますよ。「少し早めに料理を出して」と配慮していた幹事さんもいました。
兵頭 不公平感がないよう、飲まない人は費用を安くしています。でも飲めない人も、料理を楽しめる店だと満足度が上がりますよね。
――飲み会でのセクハラに悩む人も、男女問わずいました。
氏家 いまだに「何がハラスメントになるのか分からない」という人がいます。「相手が嫌と思ったらハラスメント」と伝えたい。
栗原 皆で対応したいですね。幹事さんが「いいですか部長。今回は絶対セクハラはだめですよ!」と呼びかけて飲み会をスタートさせた大企業の飲み会を見ました。
――意義がある会にするためにはどうすればいいでしょうか。
栗原 何でもいいけれど「目的」や「口実」をつくることですね。
兵頭 「仕事について話す会」でもいいと思いますし、「おいしいものを食べにいく」でもいい。
氏家 非正規やパートなど多様な働き方をしている人がいる。ただ「飲みに行こう」では納得しない人がたくさんいるはずです。
――幹事が留意すべき点は?
栗原 お店はぜひ下見を。異性の同僚も誘い、複数の視点から見るといいですよ。
――参加者として楽しむ秘訣(ひけつ)は?
氏家 同僚の人となりを知れば職場のストレスは軽減される。接点のない人と話すのは一瞬苦痛かもしれませんが、好奇心を持ち、社交と割り切る努力も必要だと思います。
兵頭 知らない人には自己紹介して、分からないことは聞いてしまいましょう。いつものメンバーでつい固まって座りがちですが、途中で「シャッフルしましょう」と言うのもアリ。色々な人に話しかけてみると、知識も人脈も広がりますよね。
(司会・丸山ひかり)
■仲間意識、会社が求めた
読者のみなさんから、実体験に基づく様々な声が届きました。神奈川県相模原市の中野典子さん(67)は、飲み会に参加するかしないかで仕事や人間関係に差が出るのであれば「不公平だ」という意見です。詳しく聞くため、訪ねてみました。
美術大学を卒業後、建築士として複数の職場で働きました。どの職場でも、飲み会は付きものでした。お酌をする、料理を取り分ける、たばこの煙を吸わされる、男性社員が裸になる宴会芸を見せられる――。嫌な思い出が次から次へとよみがえります。帰り道に男性に追いかけられ怖い経験もしました。それでも飲み会に参加し続けたのは、「仲間だという安心感を共有するために会社が求めている、と感じていたから」。
仕事をやめた今、もっと別のことに時間を使えば良かったと、後悔しています。「趣味や勉強、ボランティアといったことに接しておいたほうが、将来何かにつながったり人間的に幅が広がったりする可能性がある」と思うからです。
■家庭との板挟みに
「お酒を飲める・飲めないと、飲み会が好き・嫌いとは必ずしも一致しない」と指摘するのは千葉県に住む大学教員の羽田野直道さん(52)です。体質的にお酒が飲めないのですが、飲み会は楽しいといいます。ただ、「コミュニケーション能力の高い人と、そうでない人を選別する場にもなりかねない」とも。
子育てや介護など様々な事情がある中で、飲み会によって会社と家庭との板挟みになるという声もありました。名古屋市の会社員男性(42)は、飲み会が職場を活性化する一つの手段だとは認めつつも、「飲み会を仕事のように扱う慣習は『働き方改革』以前に解決するべき問題だ」という意見です。まだ小さい子どもがいる共働き家庭ですが、「勤務時間外での飲み会でも、断ることがいけない雰囲気がある」そうです。
仕事時間の見直しが進んだ結果、残業は減りましたが、その分は部下を飲みに連れていくようにと会社ですすめられたといいます。「参加したい人が参加して楽しめる。それが『飲み会』だという認識が広まってほしい」
■相談のハードル下げる
飲み会を仕事に生かしているという人もいます。東京都大田区の大学職員・池上徹さん(53)は、「給料日前には飲み会のスケジュールが立て込む」といいます。先輩が自分にしてくれたように、後輩に誘われた飲み会のお金は出すようにしています。仕事や、ときにプライベートの相談事を持ちかけられることもしばしば。「自分の経験や年の功を利用してもらいたい」といい、相談のハードルを下げるのにお酒が役立つといいます。
飲み会は金銭的な負担になるという意見も多く寄せられました。福井県の団体職員の50代女性は普段は自動車通勤で、「(帰りの)タクシー代と飲み会の費用合わせて1万円。パートには大変な出費です」。
兵庫県の中間管理職の女性(52)は「部下の飲み代を無しにするために二次会への参加を強要される」。お酒の力に頼ったコミュニケーションにも疑問を抱いています。「言いたいことがあれば、昼間に言えばいい。そんな職場環境をつくっていくことのほうが大切だと思います」
(金本有加)
◇私はお酒は大好きですが、大人数の飲み会はあまり得意ではありません。皆のテンションについていこうと、飲み過ぎて自己嫌悪、なんてことも。読者の方の「しんどい」経験談に、共感しました。でも、飲み会の雰囲気に後押しされて、人に話しかけやすくなる点は、いいな、と思います。座談会で出たアイデア、参考にして頂ければと思います。(丸山ひかり)
◇私自身はお酒を飲みません。飲まない理由を聞かれると、説明に困ります。歓送迎会や忘年会以外は、できるだけ参加しないようにしています。一方で、職場では飲み会の幹事をすることもあり、そんな時には全員参加を前提に考えていました。働き方や時間の使い方、お金の使い方は、人それぞれ。相手の立場を考えるよう、心がけたいと思います。(金本有加)
◆「カイシャの飲み会」については、DANRO(https://www.danro.bar/)でも記事を掲載しています。
◇来週24日は「年賀状、出しますか?」を掲載します。
◇ご意見や体験をお寄せ下さい。asahi_forum@asahi.comか、ファクス03・3545・0201、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞社 編集局長室「フォーラム面」へ。
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