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 無責任で唐突な決定である。内戦の混乱と人道危機を、さらに長引かせかねない。

 トランプ米大統領が、シリアに展開する米軍約2千人の全面撤退を決めた。過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討が終わったからだという。それが「米軍を駐留させる唯一の理由だった」と述べた。

 自国の兵士に犠牲を出したくないという思いは理解できる。米軍が他国の領土にいつまでもとどまり続けることが望ましいともいえない。

 だが、7年を超す内戦をどうやって終わらせ、荒廃した国家と分断した社会を復興させるのか。その構想も戦略もないままの撤退である。中東で長年、圧倒的な影響力をふるい続け、いまの混迷にも責任を抱える大国として、身勝手すぎる。

 トランプ氏は「米国は中東に17年間で7兆ドルも軍事費を使ったのに何も得ていない」と語る。今年夏にはシリア復興基金への拠出も撤回した。頭にあるのは損得勘定だけなのか。シリアの人々の苦しみに対する想像力が感じられない。

 「我々はISに勝利した」と自賛するが、それも疑わしい。

 確かにISの支配領域は、最盛期の2%ほどに減った。それでもシリアに1万人程度、イラクと合わせ2万人以上の戦闘員が残っていると推定される。

 シリアのような「失敗国家」では、過激派組織を軍事力で制圧するだけでは不十分である。地域の治安能力を高めなければテロを防ぐことはできない。米軍は4万人規模を目指して地元の治安部隊を育成していたが、まだ達成は2割ほどだ。

 このまま米軍が撤退すればISが息を吹き返す恐れがある。米軍トップや政権幹部らは今月半ばまで「まだシリアにとどまる」と口をそろえていた。トランプ氏はそれを独断でひっくり返したのである。

 与党・共和党からも相談なしの方針転換に不満が噴き出ている。国際協調を重視し、トランプ氏の短慮へのおもしとなってきたマティス国防長官も2月末での辞任を表明した。

 分厚い官僚組織と情報機関の状況分析に支えられた米外交は、側近の言葉にも耳を貸さない思いつきに取って代わった。その劣化ぶりに同盟国は困惑を深めるばかりだ。

 ISなどの過激派をどう封じ込めるか。中東の秩序をいかに立て直すか。国際社会の重い課題に、国連と主要国はこれまで以上に真剣に取り組むほかない。米国が自ら指導力を捨て去る流れは止まりそうにない。

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