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 《その時、何が》

 海岸沿いの街を大きな揺れが襲った。その5分後、予期せぬ津波が押し寄せた。津波が起きにくい震源なのに、高さは数メートル以上に及んだ。何が起きたのか? 専門家も首をかしげた。

 原因は、海に流れ込んだ大量の土砂だった。陸地ではなだらかだった土地が雪崩のように建物を巻き込んでいた。これは9月、インドネシアのスラウェシ島で実際に起きた災害だ。今月22日には同国内のスンダ海峡で噴火に伴う津波も起きた。こうした思わぬ津波や、山の大崩壊は各地で起きている。

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 「今回の津波には、液状化によって発生したものがある。これまでの津波防災では考えられてこなかった現象だ」

 2千人以上が犠牲になったスラウェシ島には、原因究明のため、各国から研究者が続々と調査に入った。その一人である港湾空港技術研究所の佐々真志(さっさしんじ)・グループ長はそう話した。

 被害はパル地区に集中した。地震後、数分でパル湾の沿岸に到達した津波は、高さ5メートルを超す場所もあった。地震の規模が大きかったとはいえ、津波が起きにくい「横ずれ断層型」なのに被害が広がった。

 液状化はパルの内陸部だけでなく、沿岸部の傾斜1度ほどの緩やかな斜面でも発生。地すべりのように土砂が海に流れ込んだとみられる。こうした現象は少なくとも沿岸の9カ所で起き、同時多発的に複数の津波が発生したという。

 2010年には、ハイチで同じメカニズムの津波が発生したが、今回の崩落面積は10倍の25万平方メートルに及んだ。液状化は、地震の規模に地形、地質、地下水などの要因が絡んで起きたという。佐々さんは「同規模のものが日本で起こる可能性は低いが、あり得る。このような津波は地震後数分で押し寄せる可能性がある」と話す。

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 典型的な津波の原因は、海底の断層運動だ。上下にずれ動いて海水を持ち上げる。東日本大震災の津波も、プレート境界の断層運動でもたらされた。

 一方、陸地からの土砂の流入や海底地すべりで発生することもある。米アラスカでは1958年、高さ525メートルに達する津波が発生した。地震で斜面が高さ900メートルにわたって崩れたことで、湾の対岸に押し寄せた。

 国内では1792年の「島原大変肥後迷惑」が有名だ。長崎・島原半島の眉山が大きな山崩れ(山体崩壊)を起こして有明海に流れ込み、対岸の熊本側を津波が襲った。死者は両岸で1万5千人。噴火活動のさなかの地震がきっかけとみられる。

 1998年のパプアニューギニアの地震は、地震規模の割に、津波が10メートル超と高いことが注目された。海岸直下が震源だったが、津波の到達は約20分後と遅く、地震の10分後に沖合で海底地すべりが起きた可能性が指摘されている。

 2009年の駿河湾の地震で観測された数十センチの津波も、海底地すべりがかかわったとみられる。海底地すべりの痕跡は、国内各地にある。馬場俊孝・徳島大教授は「揺れが小さくても、局地的に大きな津波をもたらす可能性がある」と言う。

 海底地すべりによる津波は、震源などから高さを求める通常の警報の仕組みが使えず、観測にも限界がある。気象研究所は山体崩壊による津波も含め、再現手法などの研究を進める。「崩れる体積や速度によって高さが変わる難しさがある。影響範囲の評価などに生かしたい」と勝間田明男室長は言う。

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 気象研は、富士山の南側が山体崩壊を起こし、駿河湾に流入した仮定の計算もしている。崩壊量1・4立方キロ、秒速20メートルだと津波は最大5・2メートル。秒速100メートルでは23メートルになった。

 もっとも、そんな事態になれば陸地でも万単位の死傷者が出るおそれがある。「火山は崩落を繰り返す運命にあることを知って欲しい」。産業技術総合研究所の山元孝広・総括研究主幹はこう指摘する。

 火山は溶岩や火山灰、軽石などが積み重なる。地震の揺れや火山活動をきっかけに不安定な部分が大きく崩れる。富士山では3万年前以降、4度の大規模崩壊があった。2900年前の「御殿場岩屑(がんせつ)なだれ」では、1立方キロが東側に崩れ出た。

 130年前、福島・磐梯山の噴火では集落が埋没。川がせき止められて湖が生じた。25万年前に栃木、福島県境の那須岳で起きた山体崩壊の量は20立方キロ。100キロ先の水戸市にも厚さ5メートル以上の堆積(たいせき)物を残した。

 より小さなクラスの崩壊は多くの例がある。関東大震災では箱根山の外輪山、84年の長野県西部地震では御嶽山、東日本大震災では那須岳周辺の斜面が崩壊し、多くの犠牲者が出た。山元さんは「ふもとに重要な構造物はつくらないなど、何らかの対策を考えた方がよい」と話す。

 (小林舞子、編集委員・佐々木英輔)

 <防災にいかす試み> 国内の山体崩壊による大津波は、ほかに北海道の渡島(おしま)大島(1741年)、北海道駒ケ岳(1640年)の例が知られる。道立総合研究機構は今春、渡島大島のケースを再現計算した結果を公表した。渡島半島西岸では10メートルを超える。過去の津波を知り、防災に役立ててもらう狙いという。

 ◆「科学の扉」は来週休みます。次回は1月7日の予定です。

 <訂正して、おわびします>

 ▼24日付科学の扉面「『想定外』を考える 土砂流入がもたらす津波」の記事で、「東日本大震災では那須岳の斜面が崩壊し」とある「那須岳」は、「那須岳周辺」の誤りでした。崩壊したのは、那須岳の火山噴出物が積もった福島県白河市の斜面でした。

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