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 (1面から続く)

 その工場には人影がなかった。アーム型ロボットが、自分と同じ型のロボットの部品をつくる。工場の中に保守点検の要員は控えるが、夜は無人となり、完全に自動化される。

 産業用ロボット世界最大手のファナックの工場群は富士山のふもと、山梨県忍野村にある。4年前の冬、無人で動く工場を訪れたPFN社長の西川徹さんは「人工知能(AI)を使えば、ロボットは賢くなれる」と確信した。家庭用ロボット事業への進出を決めたのはこのときだ。

 ファナック会長の稲葉善治さん(70)はその前に、西川さんと都内で初めて会っていた。複数の模型の車がコースを回るのを見せられたという。最初は衝突を繰り返すが、AIが次第に学習し、互いを避けるように走り始める。

 PFNが得意なのは、人の脳をモデルにした「深層学習」だ。大量のデータからAIが特徴点を探し出し、自ら学ぶ。ファナックもかつてAIの研究に取り組んだが、商品化できなかった。

 PFNが開発した家庭用ロボットのAIが見分けられるものはまだ300ほど。数万通りのものを識別できるようになれば、実用化への道が開ける。

 稲葉さんは「AIがあれば、ロボットは人間に近い作業が可能になる」と直感した。その場で出資と提携することで一致した。

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 AIがロボットを人間に近づける――。そのとき、どんな社会が待ち受けているのだろう。AIは人の仕事を助けるのか。それとも奪うのか。

 「ロボットにやれることは任せるべきだ」とオランダ出身のPFNの社員、ジェスロ・タンさん(27)は言う。米アマゾンが開いたロボットコンテストで、オランダの大学チームの一員として参加し、優勝した。世界レベルの技術者だ。アマゾンからも誘いを受けたが、日本を選んだ。「ロボットに任せれば、倉庫で荷物を運ぶ仕事から、人を解放することもできるでしょう?」

 ファナックの稲葉さんは「そもそもロボットがなければ日本の製造業はもう成り立たない」と話す。少子高齢化のあおりで、国内の製造現場は人手不足にあえぐ。人を集めようと賃金を上げれば、人件費の安いアジアに移る工場が増え、産業の「空洞化」は進む恐れもある。「力のいる仕事をロボットにやらせれば、高齢者たちも工場で働けるようになる。そして、国内に雇用の場を残せるはずだ」

 ただ、野村総合研究所と英オックスフォード大が4年前に共同研究した報告書によれば、経理事務員、スーパーのレジ係、銀行の窓口係はAIやロボットに取って代わられやすく、2030年ごろには日本の労働人口の49%が自動化される可能性があるという。

 予想では、一般の事務職など仕事の内容がほぼ決まっているホワイトカラーへの影響が大きい。一方で、医療や保育、介護の現場はコミュニケーションや状況に応じる力が求められるため、代替は進まない。

 野村総研上級コンサルタントの上田恵陶奈(えとな)さんは「人気のある事務職とはうらはらに、人手が足りない介護などでは自動化が進まない。人手不足が解消できないミスマッチが生じてしまう」と指摘する。

 大切なのは、人材を必要な分野に振り向けることだという。上田さんは「そのために人とAIとの適切な役割分担を決める。そうすれば、経験のない人でもAIやロボットの助けを借りて介護の業務などにつけるようになる」と話す。

 ■技術革新、ベンチャー盛衰

 戦後復興も高度成長もバブル経済も、人口増が背景にあった。人が減る時代になれば成長は難しくなる。

 求められるのは、マンモス化した古い組織からは出てこない独自の発想や技術を持ったベンチャーだ。

 だが、生まれ出るベンチャーの多くは、流れ星のように輝いては消える。1千社あっても本当に成功するのは3社もなく「千三(せんみ)つ」といわれる。

 日本発のロボットベンチャーがある。名前は「シャフト」。PFNより2年早く創業し、13年に米グーグルに買収された。

 11年の東日本大震災。東京電力福島第一原発で、原子炉建屋の中を動き回ったのは米国製ロボットだった。「自分たちの無力感を感じた」と元東大助教の創業者ら3人が、災害現場で使える日本製ロボットを開発しようと、旗揚げした。

 めざしたのは、モーター駆動で平衡感覚に優れ、簡単には倒れない二足歩行ロボット。米国防総省が主催する競技会の予選でトップとなり、注目を浴びた。買収された翌14年、来日したオバマ米大統領が創業者らと面会したこともある。

 買収後はグーグル日本法人と同じ六本木ヒルズに本社を移し、創業者らは巨大な資金力を持つグーグルの親会社アルファベットのチームとして研究開発にあたった。表舞台から遠ざかっていたその名が、突然ニュースで流れたのは昨秋だった。

 「シャフトを解散」

 アルファベットが、二足歩行ロボットの開発を中止するという報道だった。ソフトバンクに売却する交渉をしていたが、まとまらずに撤退を決めた。チームは配置転換されるという。

 そこには、成長性を冷徹に見極める巨大資本の論理が立ちはだかる。

 しかし、と投資家の鎌田富久さん(57)はいう。グーグルとシャフトを引き合わせ、同社の社外取締役でもあった。「開発中止は残念だが、こうした経験を繰り返しながらベンチャー全体の力が底上げされる」

 鎌田さんは、東大に在学中の1984年、携帯電話ソフト会社のACCESS(アクセス)を仲間と立ち上げ、上場させた起業家でもある。

 この20年で急成長したネットサービスの世界は「先行逃げ切り型」で、いちはやく新領域の可能性に目をつけたグーグルやアップルなど米巨大IT企業が市場を席巻した。

 いま、ようやくロボットや医療機器といった日本の得意なものづくりとAIとの融合が進みつつある。鎌田さんは、こう断言する。「いまほど、新しい産業につながるイノベーションが望まれている時代はない。日本勢にも得意な分野で世界を牛耳れる新たなチャンスが巡ってきた」(大津智義、宮地ゆう、編集委員・堀篭俊材)

 <訂正して、おわびします>

 ▼3日付総合2面「技術革新 ベンチャー盛衰」の記事で、「シャフトの二足歩行ロボット」とした写真は、別の会社のロボットでした。確認が不十分でした。シャフト社製のロボットの正しい写真を掲載します。

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