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 国公立大学13校の教員が全国各地の高校を訪れ、最先端の研究成果や大学での学びの楽しさを伝える企画「プロフェッサー・ビジット」(朝日新聞社主催、駿台予備学校、代々木ゼミナール協賛)が昨年9月から12月にかけて開催されました。各分野の専門家による出張講義に、高校生たちは大きな刺激を受けました。授業の様子をお伝えします。

 ■生物多様性、ゲノムで守る 京都大・井鷺裕司教授@広島皆実高

 プロフェッサー・ビジットのトップバッターは、京都大学大学院農学研究科の井鷺(いさぎ)裕司教授。母校でもある広島市の広島県立広島皆実高校を訪問し、1、2年生の約600人に「ゲノム情報で生物多様性を理解し保全する」をテーマに講義した。ゲノム(全遺伝情報)解析を使って、ハワイや小笠原諸島など国内外で採取した植物の遺伝情報をどのように保全に役立てているかを説明した。

 初めに、「一人の人間が持つ60兆個の細胞一つ一つに入っている30億の遺伝子の文字を新聞の朝刊にたとえると50~80年分に相当する」と遺伝子の量の膨大さを語った。遺伝子の解析スピードは、20年間で1千万倍以上になり、解析コストも大幅に下がっていることを踏まえ、「ゲノム解析の飛躍的な進歩を活用すれば、生物の多様性が守れる」と指摘した。

 自らの研究室で行った事例として、ハワイの固有種、ハワイフトモモの環境適応化について解説。樹木の種類が少ないハワイでは、100~2400メートルの標高によって、同じハワイフトモモでもいろいろな形の葉を持っている。ハワイ各地で採取したハワイフトモモの遺伝子を解析した。その結果、遺伝子は個体間でいつも混ざり合っているのに、環境適応に関連した部分では、よく混ざらず、個体の違いが大きくなっているところがあることを突き止め、生物多様性を生む種分化初期のプロセスを明らかにした。

 小笠原諸島では、絶滅危惧種のハトのフンを大量の遺伝情報を活用したメタゲノム解析で調査し、駆除対象となりがちな外来植物をえさとしていたことがわかった。栃木県内の数カ所に自生する絶滅危惧種のシモツケコウホネがインターネット上で売られていたものを入手し、個体のゲノム解析で盗掘されたと思われる場所を特定したことも紹介した。

 講義後、生徒を代表して2年生の池田悠希さんが「ゲノム解析が植物の盗掘防止などに役立ち、植物の多様性を守ることにつながることがよくわかりました」とお礼を述べた。

 <京都大学> 1897年、京都帝国大学として創立。総合人間、文、教育、法、経済、理、医、薬、工、農の10学部がある。農学部は森林科学、資源生物科学、応用生命科学など6学科からなる。

 ■市場経済、競争のルールとは 一橋大・岡田羊祐教授@札幌北高

 一橋大学大学院経済学研究科の岡田羊祐(ようすけ)教授は、札幌市の札幌北高校を訪れた。1、2年生の希望者約120人が聴いた講義のテーマは「市場経済における競争と規制」。

 まずは経済学とは、という話から。「文系と思われがちですが理系の面もある。科学的なことも学ぶし、数学や統計学を使い、データのハンドリングもします」と岡田教授。3年時での文理選択を控えた生徒たちの中には、真剣にメモをとったり、身を乗り出したりする姿も見られた。

 岡田教授の専門は競争政策。「市場競争のルールを定める政策が私の専門。どのような競争がその市場に望ましいかを考えます」と説明し、市場、競争、規制の定義などをひとつずつ解説した。さらにアマゾンやグーグルの企業名を挙げて「様々なサービスの基盤となるこれらのプラットフォーム企業をどう規制するか、非常に大きなテーマになっている」と、世界の動向を紹介した。

 市場経済への日本政府の介入の歴史も解説。成功例のひとつとして、電電公社の民営化による固定電話料金の引き下げを挙げた。しかし、昨年8月に菅義偉官房長官が言及した、携帯電話料金4割引き下げ検討には、懐疑的な見方を示した。「他国に比べて高い通信品質や、複雑な料金体系をしっかりと考慮しなければいけない」

 最後に、岡田教授は望ましい競争政策について、「競争者ではなく競争の保護が大事」と強調。消費者の利益増進を実現するべきだと話した。

 兄が大学の経済学部に通っているという1年生の吉田若葉さんは「経済が政治的な側面と強くつながっていることを学べた。データも、条件次第で変化するので、はじめから信頼してはいけないことが分かりました」。1年生の財津岳大(たかひろ)さんは、将来起業も考えているといい、「日本が今後どのような規制改革をするのかなどに興味を持った。大学レベルの授業は思考を求められる場面も多く、生徒の能動的な関わりを促す内容だと感じました」と話した。

 <一橋大学> 1875年に創立。商、経済、法、社会の4学部があり、他学部の開設科目も履修できる。日本でいち早くゼミ教育を採り入れ、現在も平均10人以下の少人数ゼミを採用する。

 ■宇宙探る重力波と爆発現象 金沢大・米徳大輔教授@千葉・市川学園市川高

 金沢大学理工研究域数物科学系の米徳(よねとく)大輔教授は、千葉県市川市の市川学園市川高校を訪問。約200人を前に、「重力波」と「ガンマ線バースト」の観測で宇宙を探る研究について講義した。

 ブラックホールや超高密度の「中性子星」などの巨大な質量の天体が動くと、時空がゆがむ。このゆがみが波状に伝わる現象が重力波だ。100年前、アインシュタインによって存在が予言されたが、2015年に初観測されたことで「宇宙を探求する新たな窓が開いた」と教授は話す。

 36+29=?

 スクリーンに一つの数式が映し出された。

 「答えは当然『65』と言いたいところですが、『62』です」

 15年の重力波初観測時、太陽の36倍と29倍の質量を持つ二つのブラックホールが衝突・合体し、質量は62倍になったことが分かった。「失われた3倍の質量分のエネルギーが、重力波として放出されたんです」

 続けて、中性子星が衝突・合体するとき、重力波に加え、継続時間の短い「ガンマ線バースト」が発生することを解説。ガンマ線バーストとは、宇宙最大の爆発現象のこと。超巨大な星が寿命を迎え爆発する瞬間にも発生する。星を構成していたガスが、光速の99・99%の速度でジェット状に噴出するという。大半が100億光年よりも遠い宇宙で発生しており、「ガンマ線バーストを観測することで、初期宇宙が探査できる」と米徳教授。

 重力波とガンマ線バーストの同時観測で、ブラックホール発生時の時空環境など、さらなる宇宙の探究ができることを強調した。

 同大学では、新しい検出器技術を導入した「超小型衛星プロジェクト」を進めている。低エネルギーのX線を検出することで、ガンマ線バーストの発生方向・時刻を見定める。米徳教授は「近い将来、この衛星で重力波天文学の発展に貢献したい」と力を込める。

 講義後、3年生の村岡音和(とわ)さんは「ガンマ線バーストのイメージ動画を見て、こんな壮大な現象があるのかと驚いた」と話した。

 <金沢大学> 1862年に設置された加賀藩彦三種痘所が源流。2008年に従来の「学部学科制」から、より自由な学びを支援する「学域学類制」に移行。人間社会、理工、医薬保健の3学域に17学類を擁する。

 ■中世の村社会、民主制の芽 熊本大・稲葉継陽教授@福岡工大付属城東高

 熊本大学永青文庫研究センター長の稲葉継陽(つぐはる)教授は、福岡市の福岡工業大学付属城東高校を訪問。「日本における民主制の起源」をテーマに、1~3年生45人に講義した。

 日本の中世・近世史を専門とする稲葉教授はまず、「日本の民主制は明治時代に欧米から輸入されたのが起源ではなく、中世の村社会にすでに萌芽(ほうが)があった」と指摘した。

 中世の村落は、農民らが同じ目的のもと力を合わせ、心を一つにする「一味同心」の自治を維持していた。13世紀、地頭の暴政に抗議して集団で領地を離脱する権利があると鎌倉幕府が定めた「御成敗式目」や、14世紀、代官の罷免(ひめん)を建武政権に求め、署名した訴状などを紹介。

 その上で、直接民主制の起源として、村の寄り合いと村掟(むらおきて)を挙げた。寄り合いでは熟議を前提とした多数決制が伝統的になされてきた。15、16世紀の村掟には「欠席した者は罰金」「合意事項は文書にする」など寄り合いに関するものや「盗人を見つけたらその場で殺害すべし」「作物盗人を見つけて仕留めたら村から褒美を支給」といった治安維持のための厳しいものも。「少し怖いですよね。『村』は百姓にとって身近な権力だったんです」と稲葉教授。

 江戸後期になると、間接民主制が見られるようになる。地域ごとに選出、委任された政治的代表者らが郡単位で集まって地域法「郡中議定(ぐんちゅうぎじょう)」を制定。経済的弱者の生活のための政策を江戸幕府や大名に要求していたことに触れ、「この時代には公共課題にまで目を向けるように変化している。天下泰平の世が影響しているのでしょう」と述べた。

 最後に「私たちは主権者として政治に対し意思表示ができる。今の政治を考える上で、現代の民主制につながる日本の歴史とその問題点を知ることも大切」と締めくくった。

 講義後、1年生の西田圭さんは「これまで政治についてはメディアでの報道をうのみにしがちだった。でも今後は自分なりに学んで考えていきたいと思います」と話した。

 <熊本大学> 旧制の第五高等学校や熊本医科大学、熊本師範学校などを包括し、1949年に新制大学として発足した。旧帝大に次ぐ伝統を誇る。文、教育、法、理、医、薬、工の7学部がある。

 ■AI、芸術分野も深層学習 公立諏訪東京理科大・山田哲靖教授@群馬・桐生高 

 公立諏訪東京理科大学の山田哲靖教授は、群馬県桐生市の県立桐生高校理数科の1、2年生の約160人に「人工知能(AI)の芸術分野への挑戦」をテーマに講義した。AI研究の一分野、ディープラーニング(深層学習)の現状と可能性を紹介。「AI研究の中で、現状、最も効果の出ている分野がディープラーニング。2045年にはAIが人間を超えるといわれており、将来関わることを避けて通れないAIを理解してもらいたい」と話した。

 ディープラーニングとは、ヒトの神経細胞(ニューロン)の仕組みを、多くの階層を作ってプログラム化し、その誤差を修正していくこと。山田教授は、「その発展には、誤差を最小限にするためにネットワークの中身を書き直す技術であるバックプロパゲーションが発明されたことが大きい」と強調した。

 続いて、脳内の視覚野の動きを模した「畳み込みニューラルネットワーク」で、物体認識ができる仕組みを紹介し、芸術分野へのAIの応用をデモンストレーションを交えて説明した。ディープラーニングで学習させた機材を持ち込み、手書き数字の識別を実演。また、モノトーンで映し出した室内に風船を登場させ、球体のみに反応するプログラムにより、風船だけが色づいて見える実験を生徒が体験した。

 他にも、これまでの行動を学習して、未来を予測する「再帰型ニューラルネットワーク」を用いたキーボードの演奏を披露。生徒が弾いた音に続く音をAIが予想して、次の音が自動的に演奏された。また、AIがバッハの曲をもとに作った新曲が紹介された。生徒たちは、AIが生み出す技術に興味津々だった。

 2年生の湯浅遥香さんは「AIに興味があり、とくに球体を認識する実演が面白かった。これからの未来に役立てる研究が大学でできたら楽しそう」と答えた。1年生の大谷陸人さんは、「AIは危険という、これまでの悪いイメージが今日の講義で覆され、よい面を見ることができてよかった」と話した。

 <公立諏訪東京理科大学> 2002年、「工学と経営学の融合教育」を柱に、東京理科大学の姉妹校として開学。18年、公立大学となり名称変更した。工学部に情報応用工学科と機械電気工学科がある。

 ◆キーワード

 <プロフェッサー・ビジット> 「国公立大学の最先端授業を高校の教室で」をコンセプトに2017年度にスタート。今年度は13大学の教員が、北海道から鹿児島県までの公立・私立の13高校(中高一貫校を含む)を訪れ、出張講義を行った。昨年6月下旬に朝日新聞紙面やウェブサイトで告知して参加校を募集。多数の応募校の中から、大学側の希望をもとに出講先を決定した。

 ◆この特集は、安達麻里子、石井久美子、中村さやか、牧野祥が担当しました。

 (20面に続く)

 

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