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 保護主義の暗雲を吹き払うかのように、自由貿易の新たな枠組みが動き出している。

 11カ国で合意した環太平洋経済連携協定(TPP)は昨年暮れに発効し、近く最初の閣僚級の会合を開く。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も、2月1日に発効する。

 TPPは、世界の国内総生産の13%、日欧EPAは28%を占める。関税が下がり、互いに輸出入が増えるとの期待は高く、TPPにはタイや韓国、台湾、英国も加盟を希望する。

 ■米中の根深い対立

 こうした動きの対極にあるのが、米国と中国だ。高い関税をかけあい、対立を続けたまま、新しい年を迎えた。

 米国は昨年、中国が米企業の知的財産権を侵害していると批判し、中国製品の関税を引き上げた。中国もこれに報復し、応酬は3度、繰り返された。

 経済大国トップ2による制裁・報復合戦は、国境を越えて世界経済を脅かしている。

 両国は話し合いのテーブルには着いた。だが、対立の根は深く、ほぐすのは簡単ではない。

 中国は、自由貿易体制を支える世界貿易機関(WTO)に2001年に加盟して以降、安い人件費を強みに輸出を伸ばしてきた。世界輸出に占める割合は、17年に13%。8・8%の米国を上回り、1位だ。

 米国や日欧は、WTO加盟で中国市場の自由化が進むと期待した。しかし国家主導の経済体制は変わらず、WTOルールを守っているとも言い難い。

 中国政府はハイテク製品に使われる鉱物資源レアアース(希土類)の輸出を制限し、日米欧と対立した。不当な安値の輸出に対抗するアンチダンピングを発動された件数で、中国は他国を大きく上回る。

 習近平(シーチンピン)国家主席のもと、15年に出された先端技術育成政策「中国製造2025」を、米国は「国際市場支配への準備」と警戒する。今回の制裁関税の一因にもなった。

 ■見当たらない歯止め

 一方、米国政府はWTOに対する不満を募らせていた。加盟国による貿易自由化交渉は行き詰まったままだ。紛争解決に持ち込まれたケースでは、米国に不利な決定が続いた。

 米国民の間にも、自由貿易やグローバル化への批判が高まっていた。国際競争力を失った産業の労働者らは、失業や低賃金に苦しむ。

 貿易赤字という形で、米国の富が新興国に吸い取られているのではないか。そんな不満をすくい取ったのが、「米国第一」を掲げたトランプ大統領だ。多国間の枠組みを軽視し、二国間の交渉を力ずくで進める。最大の標的が中国だ。

 米国と、その貿易赤字相手国との対立と言えば、日米の摩擦が思い起こされる。

 1960年代以降、米国の対日貿易赤字は膨らんでいった。繊維や半導体、自動車、牛肉やオレンジ、コメなど品目を変えては、厳しい交渉が続いた。

 ただ、決定的な対立を避ける歯止めがあった。日米の同盟関係だ。安全保障で米国に依存する日本は、どこかで折り合いをつけざるをえなかった。

 いまの米国と中国は覇権争いの様相を呈しており、どちらも譲歩しづらい。人権や南シナ海問題など、貿易以外でも対立の火種を抱える。

 ■TPPを追い風に

 米中が自由貿易のルールを踏みにじるなか、新しい秩序をどう再構築するのか。

 カギになるのは、TPPなど多国間の枠組みをさらに広げ、そこに米国や中国を少しでも巻き込んでいくことだ。米国が離脱したTPPをまとめた日本は、主導力を発揮することが求められる。

 TPPの加盟国が増えていけば、国際的な貿易ルールの一つとして定着しうる。利点が明確になれば、いまは加わっていない中国も意識せざるをえないだろう。市場経済と相いれない産業政策を見直す方向への誘因になるはずだ。

 中国も加わる16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の協議でも、高水準のルールづくりの意義を説き、年内の妥結にこぎつけたい。

 米国は、TPPや日欧EPAの発効で、日本市場で不利な立場に置かれる。すぐにTPPに呼び戻すのは、難しいかもしれない。だが、まもなく始まる日米の貿易交渉で、日本はTPPの基準やルールに沿って主張する余裕を持てる。

 自国第一主義を押し通す米国も昨年、日本やEUとともにWTO改革の提案には加わった。中国を念頭に、報告なく自国産業への優遇を続けた加盟国に罰則をかける内容だ。日本が米欧と中国の橋渡しをしながら妥協点を見いだせれば、WTO活性化の一歩となりうる。

 トランプ旋風が破壊しようとしている自由貿易の秩序。立て直しに向けて、粘り強く取り組みたい。

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