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 新成人のみなさんに、見てもらいたい風刺画がある。

 黒と白の真ん中に引かれた、グレーの細い線。「怒りの時代に、ニュアンスある議論へ与えられた空間」だという。

 作者は、30年以上のキャリアを持つオーストラリアの人気風刺画家、キャシー・ウィルコックスさん。昨年9月にツイッターに載せると、すぐに1500回近く「いいね」された。

 「ニュアンスある議論」とは、何だろう。

 あなたの意見に共感はできないが、意図するところは理解する――。そんな結論に至ることができる意見交換だと、ウィルコックスさんは話す。

 LINEやツイッターなどのソーシャルメディアが社会のすみずみにまで広がり、前向きな対話が細ったのではないか。その思いを込めて描いたら、意外なコメントがたくさん届いた。

 いや、線の幅はまだ広すぎる。世の中はもっと不寛容だ。「昔はその中間部分に多くがいたものだった。今の政治家や左右両極の支持者たちは違うけれど」というのもあった。

 賛成と反対、好きと嫌い、敵と味方。社会には二択では決められない、微妙で複雑な感情があふれている。ツイートに積み上がる「●(●はハートマーク)(いいね)」の陰には、いろいろなサイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)の思いがあることを想像してみてほしい。

 そう、世の中は、白黒だけで成り立っているわけではない。

 ■SNS時代の議論

 米大学の心理学者らが2年前、銃規制や同性婚など3テーマに絞って56万件以上のツイートを調べた研究がある。異なる考えの人たちは無視しあい、似たもの同士による意見交換に終始する傾向が強い。同じ価値観同士でも、特に「怒り」と「嫌悪」への共感で行動が活発化することもわかった。

 名古屋大学大学院の大平英樹教授(感情心理学)は「SNSでは、同じ意見をほめ、異論は遮断できる。これを続けていると、異質のものを想像したり、中長期的に感情を制御したりする機能が低下するという考え方がある」と話す。

 会って意思の疎通をするとき、相手の考え方は言葉だけでなく、口調や表情、しぐさなどからも判断できる。会ってみたら悪意はないとわかった、ただ自分とは違う価値観を持った人だった、というように。

 スマートフォンやパソコンの画面だけを通じたやりとりだけでは、十分にはわからない。時にはスマホから顔を上げて真っ正面から向かい合い、触れてみよう。怒りや嫌悪の裏にある、何十、何百もの陰影に。

 みなさんが成人の仲間入りをした世界に目を向けると、そこにも分断線が広がっている。

 グローバル主義を否定するトランプ大統領の米国で、ポピュリズム勢力が台頭する欧州で、相反する意見への拒絶反応が激しさを増している。

 ■違いを超えて対話を

 ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は1日、新年恒例の平和メッセージを出した。「閉鎖的なナショナリズムの姿勢が政治の中にも表れている」「真の政治活動は、人々の誠実な対話と法に基づいている」として、文化や宗教などの違いを超えた対話を呼びかけた。

 暴力や差別に対するように、みんなで怒りを共有し、告発する勇気が必要な時もある。同時に、異なる価値観に思いを巡らせ、対話し、理解しようとする寛容さも大切にしたい。

 ニュアンスある世界へ、ようこそ。

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