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 研究の意義は理解できる。だが科学界の意見の一致がない以上、踏み出すべきではない。

 大型加速器・国際リニアコライダー(ILC)について、日本学術会議が昨年末「誘致を支持するには至らない」とする所見を文部科学省に提出した。同省の依頼を受け、各分野の専門家でつくる会議が出した結論である。もっともな内容で、政府は尊重しなければならない。

 ILCは地下100メートルに造る全長20キロの実験施設だ。電子などを光速近くにまで加速して衝突させ、飛び出す素粒子「ヒッグス粒子」の性質を調べる。建設と実験運用に30年、建設費だけで8千億円が見込まれる。他国と一部を分かち合うにしても、国際宇宙ステーションなどに匹敵する負担となる。

 学術会議が主に疑問視したのは、費用分担に関する明確な見通しが得られておらず、建設に必要な人材の確保も明らかでないことだ。純学術的な意義を認めつつ、技術や経済への波及効果についても「現状では不透明な部分がある」としている。

 一国では取り組めない巨大研究を国際協力で進めるのは時代の要請であり、日本も積極的に参加するべきだ。近年低迷する科学研究力を、活性化する契機になる可能性がある。

 だとしても、多くの関係者に聞き取りを重ねて導き出された学術会議の判断は重い。政府による誘致表明の期限は3月上旬とされるが、今回の所見を覆して国民の理解を得るのは困難と言わざるを得ない。

 所見は末尾で、「実験施設の巨大化を前提とする研究スタイルは、いずれは持続性の限界に達する」として、「ビッグサイエンスの将来のあり方は、学術界全体で考えなければならない課題だ」と指摘した。

 学術会議はこれまで、科学コミュニティーから応募・提案があったものの中から推進すべき大型研究計画を選び、取り組みの優先度をつけてきた。だがILC計画はその対象にならず、研究者らと一部政治家の主導で検討が重ねられてきた。

 計画が重要な基礎科学の一環であるのは間違いないが、その採否によって他の学問分野への資金配分にも影響が及ぶ。この種の事業は、丁寧な審議を重ねて科学界のコンセンサスをまず作りあげ、そのうえで人々の幅広い支持をとりつける。そんな進め方が求められる。

 現時点でILC誘致を表明している国はない。今回の所見も踏まえ、期限にこだわらず、研究の必要性や実現の道筋について他国と協議してはどうか。

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