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 「2030年の日本を語ろう」をコンセプトに、朝日新聞社は平成世代と大人世代による対話のセッションを定期的に開き、ウェブサイト「朝日新聞DIALOG」で発信しています。昨年12月のセッションでは「セクシュアリティー」を切り口に平成の30年間を振り返り、約90人の参加者が望ましい社会のあり方について議論を交わしました。

 ■LGBTの存在、可視化を ロバート・キャンベルさん

 私は2018年8月にゲイであることをブログで公表しました。政治家の心ない「生産性」発言に反論したかったからです。反論よりも、公表が大きく取り上げられましたが、「勇気づけられた」という声を寄せていただきました。

 私はすでに還暦を過ぎているし、学生や近所の多くの人たちは以前から知っていたので、実生活に大きな影響はありませんでした。

 ただ、日本ではまだ、自分のセクシュアリティーについて公言するということには、「計算」が必要だと思っています。若い人や、住んでいる地域、家庭環境によっては公表が難しい人もいるでしょう。全員に「ぜひ公表して」というわけにはいかず、公表出来るような状況を作っていかなければいけない。

 一方、矛盾するようですが、(LGBTの人たちを)可視化する必要性も感じています。LGBTが「周囲にいない」と答える日本人が多いのは、存在しないのではなく、安心して「いるよ」と言えない社会の仕組みに原因があります。LGBTの大学教員や新聞記者、商店街の会長、アスリートなど、表に立って活動する人たちが自身のセクシュアリティーについて公言しつつ、自分の本業をまっとうする姿が見えるようになればいいと思うのです。

 (LGBTの)パートナーシップや結婚についても変化が求められています。アイルランドでは2015年に世界で初めて、国民投票で同性間の結婚を認めました。世界では、その前後に様々な動きがありました。

 同性同士のカップルのうち、どちらかが病気になったら? 老後の生活設計はどうする? そういった、社会の一員として当然の権利をどう確立していくのかについて、日本でもスピードを速めながら、状況を変えていかなければなりません。

 一人ひとりが慎重かつ大胆に行動することが重要な力になる。そして、絶えず世論や身近な行政を通じて政治に働きかけることが重要だと思います。

     *

 1957年、米ニューヨーク生まれ。日本文学研究者。国文学研究資料館長。東大名誉教授。一昨年、日本人パートナーと米国で法的な婚姻関係を結んだ。

 ■新しい「当たり前」示せれば

 パネルディスカッションでは、LGBTの当事者らが議論しました。セクシュアリティーの多様性について理解を深め、当事者の生きづらさをなくしていくためには、どうすればいいのか。具体的な仕組みとして、日本では認められていない同性婚と、いくつかの自治体が導入しているパートナーシップ制度が話題にのぼりました。

 増原裕子さんはパートナーシップ制度について「その自治体でのみ有効な制度で、法定相続人になれない、共同親権をもてないなど法的にできないことも多い」と、同性婚との違いを説明。一方で「同性愛者は透明人間のような、いないことにされていた存在だった。自治体が存在を肯定してくれたことは、私にも社会にも大きなことでした」と評価しました。

 ■同性婚求め、提訴の動き

 ただ、パートナーシップ制度がある自治体はまだわずかです。「どうすれば風向きが変わるのか」というキャンベルさんの問いかけに、松岡宗嗣さんは、各地の議会に制度導入を求める請願書が出されていることに言及。「議会で議論するということは、何らかの判断をするということ。風向きが変わるきっかけになると思う」と答えました。また、複数の同性カップルが近く、同性婚を法的に認めるよう求め、各地で提訴する予定があることも紹介しました。

 会場の参加者から登壇者に聞きたいこととして多く挙がったのが、「当事者の周囲の人は、どう振る舞えばいいのか」でした。

 パートナーの河崎美里さんと大瀧真優さんは春から、同性婚ができる20以上の国などをめぐってウェディングフォトを撮り、SNSで発信する予定です。河崎さんは「新しい『当たり前』を提示することで、LGBTへの『特別感』がなくなり、周囲の人はどうすればいいのかを考える必要がなくなればいい」。また、大瀧さんは「どんな人も『マイノリティー』な部分はある。LGBTを特別視しないでほしい」と話しました。

 ■「普通」にあてはめないで

 当事者を生きづらくするような「空気感」を打破するためには、どんなことが必要なのか。進行役を務めた古野香織さんの問いに、キャンベルさんは「言葉が変わるということ、ある事象がどのように描かれるのかということはとても大事。LGBTという言葉も、誰が性愛の対象かということにとどまらず、その人の可能性の一つだと、前向きにとらえられるようになればいい」と話しました。そして、旅に出る2人に「ウェディングフォトにも同じような作用がある。同性カップルが祝福され、理屈抜きにうれしくなるような姿を示していくことが、空気を変える原動力になるかもしれない」とエールを送りました。

 松岡さんは「人を構成する要素はさまざま。『普通』にあてはめず、一人ひとりと向き合ってほしい」と訴えつつ、「同時に、パートナーに財産分与ができないなど、制度上、見落とされていることは多い。この状況は公正なのか。そうやって、ミクロの視点とマクロの視点の間を行き来することが大事だと思う」と締めくくりました。(三島あずさ)

 ■支援は見える形で/身構えなくていい

 会場で聞いた参加者の声を紹介します。

     ◇

 ●「フィンランドから留学中だ。自分はバイセクシュアルと自認しているが、カミングアウトすることは大したことではない。小さい頃からLGBTについて教えられているからだと思う。メディアで取り上げても、その情報に接しない人もいるので、学校で性教育をすることが大切だ。法制度も必要なので、同性婚が法的に認められるようになるといいと思う」(大学院生 ノードストローム・ロバートさん 26)

 ●「渋谷区がパートナーシップ条例を作った当時、区で仕事をしていた。時代はさらに動いていて、声を上げ続けることの大事さを感じた。松岡さんが『誰もが誰かのアライ(支援者)になれる』と話していた。声を上げている人に対し、心の中で『味方です』と思うだけでなく、声に出して言えることが大事だと知った」(女性や性的指向・性自認に関する相談員 木山直子さん 48)

 ●「同世代には閉塞(へいそく)感があるが、始まりは小さな動きでも、発信を続けることで大きな議論を呼び起こせると感じ、勇気づけられた。自分はマイノリティーの人を抑圧しないという意味では、今までもアライだが、当事者が主張している時や攻撃されている時に、目に見える動きで賛同を示すことが大事だと知った」(大学院生 新荘直明さん 24)

 ●「高校時代、友人からLGBTの当事者だと打ち明けられた。『あなたとの関係は何も変わらないよ』と伝えたが、驚きを隠せずに後悔した。私はアライとしてどうすればいいのか。当事者の方々の声を聞き、身構えることはないんだ、と改めて思えた」(大学生 女性 20)

 ■若い人の行動、社会を変える

 専門家はこの日の議論をどう受け止めたのか。東京都渋谷区のパートナーシップ制度導入に関わった棚村政行・早稲田大教授(家族法)に聞きました。

 差別が強かった時代を経験し、医療や相続で受ける不利益を実感している大人の世代と、生活に縛られない若さがあり、理想や夢をさらりと語れる平成世代の言葉は対照的でした。昭和は当事者は我慢して隠すしかなく、諦めの世代でもあった。平成はSNSの普及などでカミングアウトしやすくなり、時代の違いは大きい。平成世代は大人世代が歩んできた道のりを知り、現実的な知恵をもらうことで、新しい時代に大きく前進できるはずです。

 パートナーシップ制度を導入する自治体が増えているとはいえ、全国の約1800のうち10だけ。大事なのは、性的少数者への差別禁止といった「マイナスを与えない」政策と、家族や夫婦としての権利を認めて「プラスを与える」政策を両輪で進めることです。他国の動きを全部採り入れるくらいでないと日本は追いつけないでしょう。特に、当事者の子どもたちをどう守るかは、同性婚を認めた国でも課題です。親や周囲の大人が理解していない現実もある。

 ただ、制度は大人の世界で作られる。日本を変えていくには、若い人が政治に関心を持ち投票行動で態度を示すことも必要です。(聞き手・村井七緒子)

 ◆ほかに山本奈朱香、高重治香が担当しました。

 ◇来週28日は「男女格差」を掲載します。

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