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 「3回泣ける」「感動のラスト」

 街にあふれる本や映画の宣伝が、どうもよく似ている気がします。

 もっと感動したい。感動させたい――。そんな空気の広がりに引っかかりを覚えていたら、年明け早々、「おやっ」と目を引く記事に出会いました。朝日新聞の文化・文芸面に載った連載「感・情・振・動――ココロの行方」(1日から5回)です。

 熱狂に包まれる音楽ライブや映画。人工知能(AI)で感情を読みとる研究。なぜ「感動を消費する社会」に目を向けたのか。文化くらし報道部の丸山玄則・文化担当部長に記事の狙いを聞きました。

 身の回りでも、広い世界でも、「論」より「情」が世の中を引っ張っている――。記者たちのそんな問題意識が出発点だったそうです。「感動したい人も、させたい人も、同じ方向へ向かっている。SNSがそれを増幅し、忘れるまでの期間も短くなった。その陰で私たちは何かを見落としているのではないかと」

 面白いけれど、難度の高いテーマだと感じました。「感動に流されていないか」という問いは、そのまま新聞にも跳ね返ってくるからです。

 取材班の意図を受けとめたかのように、東京都の女性(40代)から連載への感想が寄せられました。

 「社会全体が『感動する』ことを重視している流れに常々疑問を感じていた。感動をあおるマスコミ側からこのような切り口の記事が出たことを評価したい」

     *

 「感動」をとりあげたニュースは新聞にもよく登場します。

 今から30年前、平成が始まった1989年の朝日新聞をデータベースで検索すると、「感動」という言葉が使われた記事は901本。昨年は2271本ありました。

 みなさんは新聞に感動を求めていますか。

 新聞社に寄せられるご意見は、大きく二つに分かれます。

 「メディアに期待するのはニュースと情報」「朝日新聞は不正の追及とスクープを」「正しい情報さえ載せてくれれば、あとは読む側が考える」「お涙ちょうだいの記事は読みたくない」

 なかなか厳しい指摘です。

 一方で、異なる声も届きます。京都の女性読者(20代)は、人の人生をたどる記事をよく読むそうです。

 「新聞を閉じたあとも自分の中に深く刻まれ続ける記事や言葉に出会えた時の感動は大きい」

 もし情報やデータしか載せない新聞だったら? 無味乾燥で、私も親しみを持てそうにありません。

 「客観報道」と「新聞で伝わる感動」は、どちらか一つを選ぶようなものではないのでしょう。それぞれの役割を果たしながら、どうバランスをとるか。考えてみれば朝日新聞は、難しい試験を毎日受けているようなものかもしれません。

 災害や事件、オリンピック。そのつど、「人」に焦点をあてる記事はたくさん出てきます。あからさまな美談調は姿を消したと思うのですが、それでも「けがや挫折を乗り越えた選手の話ばかり」「悲しみをことさら強調している」との指摘を受けることがあります。

 何をどう書けば伝わるか。悩みながら私も取材記者をしてきました。

 事実を報じることが新聞の基本です。浮ついた言葉は使いたくないし、本当に胸を打つ話であれば、淡々と記すだけでいい。それが届くかどうかは、記事がもつ力次第です。

 だから「過剰な感動を押しつけるな」という意見には大いに賛成なのですが、どんな書き方なら「共感を呼ぶ記事」となり、どこから先は「過剰な感動物語」になってしまうのか。その境目を説明する言葉を今もうまく見つけられずにいます。

     *

 「感動」をとりあげた新年連載は、芸術分野を中心に、最近の動きを捉えたものでした。

 では新聞と感動の関係を、丸山担当部長はどう考えているでしょう。

 「新聞にはたくさんのページがあります。1~3面は事実に徹した報道や『論』が中心。人間味を大切にする社会面には心を揺さぶる記事があっていい。ページごとに役割分担をし、新聞全体でバランスがとれていればいいと思います。その時に文化・文芸面は『論』と『情』の両方の角度から社会を掘り下げる役目を果たしたい」

 この連載を読んで、感動との向き合い方に思いをめぐらせた読者もいました。長野に住む女性(60代)から寄せられた声をご紹介します。

 「本の広告欄に『泣ける本』『泣ける話』などとあり、なぜそんなに『泣きたい』のか不思議だった」

 「新聞紙面にも『感動を求めたいのだろうと思われる記事』を見る。『ひととき』を読むと涙があふれることも確かにある。冷静沈着な記事と潤いのある記事と、紙面全体のバランスが大事なのだろうと思った」

 そしてこう添えられていました。

 「本当に重要なことを感動でごまかしてはいけない」

 メディアが向き合うべき課題の一つが、ここにもあるのです。

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 やまのうえ・れいこ 1985年朝日新聞社入社。社会部記者・次長、論説委員、東京本社販売局長補佐、編成局長補佐などを経て現職。

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