[PR]

 国境画定への道に立ちはだかる壁は今なお厚いことがはっきりした。短期決着の展望は開けそうにもない。交渉に臨む考え方を見直すべきだろう。

 安倍首相がモスクワを訪ね、プーチン大統領と会談した。両首脳としては通算25回目の顔合わせだったが、平和条約をめぐる溝は埋められなかった。

 第1に、妥結の時期だ。安倍氏は6月のプーチン氏の来日時をめざしてきたが、ロシア側はそんな時間枠を考えていない。プーチン氏は会談後、「長期的な作業」が要ると強調した。

 第2に交渉の進め方である。安倍氏は、首脳同士の信頼関係に基づくトップダウンの打開を探っているが、プーチン氏はまず「国民の支持」を醸成するのが不可欠との姿勢を示した。

 プーチン氏は一方で、自国民の説得に乗りだす気配はない。安倍氏が言う「二人の手で終止符を打つ」という決意が共有されているとは言いがたい。

 当然ながら二国間の条約は、締結が自国の利益だと双方が納得して署名しなければ成立しない。そのためには互いの立場の違いを理解し、克服する知恵を出しあわねばならない。

 だが、ロシア側は日本がどこまで譲歩するかを突き放して瀬踏みしているかのようだ。ラブロフ外相は「北方領土」の用語を日本が使うことさえ認めていない。外交上の敬意も乏しい強気な姿勢に終始している。

 日本政府は長年、4島返還の看板を掲げてきた。しかし安倍氏は今回、その要求を控え、対象を実質的に歯舞、色丹の2島に絞る方針で臨んだという。

 それでもロシア側は、4島すべてがロシア領であることは確定済みで、議論の余地はないとの主張を強めている。これでは交渉の体すらなしていない。

 プーチン政権にとっては、第2次大戦でドイツや日本と戦った歴史を愛国心の高揚に利用してきた経緯がある。簡単に曲げられる問題ではない。

 安倍氏は、来月に改めて外相会談を開くよう求めている。だがこの現状では外相会談を重ねても、根本的なすれ違いを繰りかえす公算が大きい。

 実質2島論という国策への転換を、安倍政権は国民に明示していない。説明責任を果たさないまま政権の独走で短期の成果を求めるような交渉を、いつまでも続けるべきではない。

 元島民らがもっと自由に故郷と往来できる制度をつくり、民間の経済交流を促すのは有益だ。その一方で、平和条約問題については腰の据わった長期的な視座で臨むのが賢明である。

こんなニュースも