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 核戦争の恐怖が続いた東西冷戦時代。あの果てしない核軍拡へ逆戻りするつもりなのか。

 米国が、中距離核戦力全廃条約からの離脱をロシアに正式通告すると表明した。1987年に米国とソ連が結び、冷戦終結への転機を刻んだ条約である。

 この歴史的な核軍縮の取り決めに代わる歯止めは用意されていない。米ロの両首脳はともに戦力の強化を誓っている。世界の核競争を加速させる無分別な過ちというほかない。

 米国は昨秋、離脱を予告していた。ロシアが条約違反である巡航ミサイルの開発と配備を進めているとの理由を挙げた。

 だがこのとき、その脅威にさらされるドイツやフランスは、欧州の安全保障に条約は必要だと主張していた。強引な離脱の判断には、トランプ政権の同盟軽視の姿勢が表れている。

 条約の中距離核戦力(INF)は、500~5500キロの射程を指す。冷戦下の欧州を背景にした条約には、今の時代にそぐわない面も確かにある。

 米ロが禁じられている射程の核戦力を、条約と関係ない中国は着実に増やしてきた。中国との競争で足かせを外すことが、トランプ政権の本当の狙いともみられている。

 だが、このままでは核軍拡が野放図に広がる。米ロは既存のルールを土台としつつ、中国を含む全核保有国を包含する新たな核軍縮の枠組みづくりをめざすべきだ。トランプ氏も言及したが、行動は何も見えない。

 米ロ両首脳は、核競争に陥る不毛さを認めあった条約締結当時を思い起こすべきだろう。米ロ中を含め、どの国民も望んでいるのは経済的繁栄と社会の安定であり、無用な軍拡による国力の浪費ではない。

 広島市長と長崎市長は連名で先月末、トランプ、プーチン両氏に要請書を送り、「代替措置なしにこの条約が撤廃されれば、核兵器使用のリスクが高まる」と訴え、互いの信頼関係を築くよう求めた。安倍政権は、そのために両国首脳を説得する役割を心がけるべきだ。

 再来年には、オバマ前政権が2010年にロシアと結んだ新しい戦略兵器削減条約が期限を迎える。米ロ両国はただちに、条約の延長に向けた真摯(しんし)な話し合いを進め、核軍縮の道に戻らなければならない。

 米ロ中も加わっている核不拡散条約は、「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を締結国に課している。その責務に背を向けることは核不拡散体制を掘り崩し、恐怖が覆う世界をもたらすだろう。そこに勝者は誰もいない。

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