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 1兆円近い公金を議会の承認もなく大統領の一存で使うという。いまや米国は独裁に近い国に成り果てたのだろうか。

 トランプ大統領が、メキシコ国境での壁の建設費を一気に増やすために異例の手段に出た。国家非常事態の宣言である。大統領の権限で国防費などを振り向けるという。

 合衆国憲法には、緊急事態の大権を行政府に与える明確な規定はない。英国の強権から独立した国柄ゆえ、建国時に権力集中の防止に努めたとされる。

 現在の非常事態宣言は、1970年代半ばにつくられた法律に基づく。緊急時に議会の審議などの手続きを経ずに、大統領が迅速に対応できる制度だ。

 これまで外国への制裁や、災害、テロ、伝染病などに関連して出されてきたが、今回はまったく様相が違う。議会が認めない予算を大統領が確保する政争の具として宣言されたのだ。

 米国が長い歴史をかけて築いてきた民主政治が揺らぎかねない事態である。内閣が予算を作成・提案する日本と違い、米国の予算編成は議会の専権事項とされている。トランプ氏の独断は、その厳格な三権分立の破壊行為に等しい。

 そもそも、非常事態とみるべき状況はメキシコ国境にない。拘束される不法移民の数は10年前より大きく減っている。日本や欧州から輸入する鉄やアルミに高関税を課した際に、「安全保障」を口実に使ったのと同じ、手前勝手な理屈だ。

 トランプ氏の狙いは、大統領選で唱えた「壁建設」の公約を守る姿勢を示し、固い支持層をつなぎとめたいのだろう。

 大統領の権力監視は議会の責務だが、与党の幹部は宣言への支持を公言した。立法府の権威が脅かされてもなお党派に閉じこもるのが、いまの米国の分断政治であり、この冬は政府機関の長期閉鎖も招いた。国民の生活を顧みない偏狭な政治こそ、国難と呼ぶべきだろう。

 トランプ政権の「米国第一」主義の外交で、米国は孤立感を深めている。人権の理念にもほとんど関心を示さず、移民や難民を犯罪者呼ばわりする政権の姿は、自由や平等を看板にしてきた国家像を傷つけている。

 国境の壁はもはや予算論議の枠にとどまらず、米国が重んじてきた三権分立と、寛容な多元主義が問われている問題だ。

 野党や一部の州知事は、今回の宣言の違憲性を司法に訴える構えを見せている。立法府とともに大統領を監視すべき司法が米国民主主義の復元力を示すかどうか、世界が見つめている。

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