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 自民党が先週、全国の自治体の6割以上が自衛官募集への協力に応じていないとして、党所属の国会議員に対し、選挙区内の自治体の協力状況を確認するよう文書で求めた。

 憲法9条改正の理由として自治体の「非協力」を挙げだした安倍首相に呼応した動きだ。

 協力状況の確認だというが、国の予算配分などに影響力を持つ与党議員の問い合わせは事実上、自治体への不当な圧力になると言わざるを得ない。

 そもそも、首相や自民党の言い分は、協力の定義をことさら狭く解釈したものだ。

 防衛省が求める「紙か電子媒体での名簿提供」に応じているのは確かに約36%だが、住民基本台帳の閲覧や書き写しを認める形で協力している自治体を含めれば約9割にのぼる。

 しかも、閲覧に応じた自治体のうち約6割は、あらかじめ対象年齢の男女を抽出した名簿を準備しておくという便宜を図っている。それでも「協力拒否」と切り捨てるのか。

 名簿提出にも閲覧にも応じていないのは、全1741自治体のうち5自治体だ。「6割以上が協力拒否」との主張は明らかに事実に反する。

 自民党の文書では、名簿を提供した行政側が地方議会で「左派系会派」の追及を受けて謝罪に追い込まれたとして「看過できない状況」と指摘した。しかし、これを党派的な対立とだけ見るのは考え違いではないか。

 自衛隊法やその施行令は、防衛相が自治体に協力を求めることができると規定しているが、自治体に応じる義務がないことは防衛省も認めている。国と自治体は対等であり、どんな形で協力するかも含め、自治体の判断が尊重されるべきだ。

 防衛省が求めるのは、住所、氏名、生年月日、性別という、まさに個人情報である。首相の発言を受け、石田総務相は国会で、住民基本台帳法上の明文規定はないが、名簿提出に「問題はない」と答弁した。だが、個人情報保護への意識の高まりを思えば、たとえ相手が行政機関であっても、本人の同意なく情報を提供することに自治体が慎重になるのは当然だろう。

 国の求め通りに動かない自治体を非難する首相や自民党の考えからは、地方自治や個人情報保護を重んじる意識がすっぽりと抜け落ちている。

 自衛隊員が住所や氏名などを書き写すのが大変だから、名簿提出に応じないのは協力と言えない――。そんな理由で、自治体の判断を踏みにじることがあってはならない。

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