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 刑事事件の証拠は、有罪を決定づけることもあれば、冤罪(えんざい)を晴らすこともある。その重さを自覚しない、捜査機関の信じられない行いが相次いでいる。

 東京地裁は先日、手術後に患者の女性にわいせつ行為をしたとして起訴された男性医師に、無罪を言い渡した。麻酔や痛みで妄想が生じる「せん妄」に女性が陥り、幻覚を体験したことを否定できないと判断した。

 医師でつくる団体が早くからその可能性を指摘するなか、検察が立証の柱にしたのは、女性に付着した微物から検出した医師のDNAの型や量だった。だが裁判で明らかになったのは、そのあまりに不適切な扱いだ。

 警視庁の科学捜査研究所は、鑑定経過を記録する際に、後で書き換えられる鉛筆を使い、実際に消しゴムで訂正した箇所もあった。鑑定に使ったDNA溶液の残りは「大掃除の時に廃棄した」といい、厳密な再鑑定はできなくなっていた。

 判決は「検査者としての誠実さに疑念がある」と述べ、鑑定結果を有罪の根拠にはできないと結論づけた。重要なはずの証拠の価値を、捜査機関自らがおとしめたことになる。

 こうした問題行動は過去にも起きている。必要性が乏しいのに鑑定試料を使い切ってしまい、反証活動を事実上できないようにしてしまうとの批判も、弁護士らの間にある。

 警察庁は10年以降、通達を何度か出し、保管や記録に注意を促してきたが、浸透していないことが浮き彫りになった。

 DNAに関する鑑定技術の向上を受けて、欧米では証拠保存のあり方や、有罪確定後に再鑑定を受ける権利などについて決めた法律が制定されている。朝日新聞の社説も法整備の必要性を主張してきた。世界の動きや今回の事件を教訓に、「通達」ではなく「法律」でルールを明確・厳格化する必要がある。

 埼玉県警で最近発覚した不祥事も、証拠に対する意識の低さを物語る。ひき逃げ事件で死亡した男児の腕時計を紛失したうえ、警察官が遺族から証拠品リストを回収して、腕時計の記載を落としたものを新たに渡した疑いが持たれている。

 証拠品をめぐるトラブルは絶えない。所轄署でなく警察本部で集中管理するなどの取り組みも見られるが、再発防止に向けて一層の強化が必要だ。

 自白偏重からの脱却が求められ、遺留品や鑑定結果をはじめとする客観証拠は、重要さを増している。ずさんな扱いは決して許されないことを、捜査関係者は肝に銘じるべきだ。

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