[PR]

 日本と北朝鮮の間には、歴史的な問題や安全保障上の対立が入り組んでいる。だからこそ、その場しのぎではない腰のすわった外交が求められる。

 日本政府が過去11年間、国連人権理事会で続けた行動を今年はやめるという。北朝鮮に対する非難決議案の提出である。

 日本は、一貫して拉致問題の解決を訴えてきた。提出を見送るのは、この問題で北朝鮮の前向きな姿勢を引き出すための方針転換だという。

 先月の米朝首脳会談が事実上決裂したのを受け、北朝鮮は日本に接近してくるのではないか――そんな期待があるとみられるが、現実はその逆をいっている。北朝鮮メディアは、安倍政権が米朝会談を妨げようとしたと強く非難している。決議案提出の見送りだけで北朝鮮が翻意するとは考えにくい。

 日本政府が早急に整えるべきは、小手先の変化ではなく、本格的な日朝対話に備えた態勢づくりである。

 安倍政権のこれまでの北朝鮮政策は硬直的で工夫に欠けた。「必要なのは対話でない。圧力だ」と繰り返し、制裁一辺倒の姿勢をとり続けた。

 米トランプ政権は一時期までは圧力路線を続けたが、実際には水面下で対話の窓口を開けてきた。対北交渉で先行した韓国との調整を進め、複数回の首脳会談を実現させた。

 日本は現在まで、対話の糸口すらつかめていない。最重要課題とする拉致問題の進展を望むのは困難な状況だ。遅ればせながら試みるべき行動は、米韓と連携して能動的に平壌に働きかける外交アプローチだろう。

 決議案の提出を唐突に見送るのは、外交モラルの原則からも疑問符がつく。人権という普遍的な価値の問題を、政治的な駆け引きに利用する行為と見られても仕方あるまい。

 日本人拉致問題のみならず、米国人大学生を長期拘束の末、昏睡(こんすい)状態で解放するなど、北朝鮮の人権状況は劣悪だ。日本政府が長年、国連の場で決議を推進してきたのは、深刻な人道の問題を国際社会と共有するためではなかったのか。

 決議案は、日本が提案国から外れても欧州連合(EU)が引き続き提出するという。菅官房長官は「総合的に検討した」と言うが、判断の理由を明確に国民に説明すべきだ。

 場当たり的に対応を変えるようでは、北朝鮮に足元をみられかねない。人権など普遍的な原則においてはぶれることなく、政治的対話の道を開く重層的な外交政策を追求すべきだ。

こんなニュースも