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 漫画の神様・手塚治虫(1928~89)のライフワーク「火の鳥」。漫画化されなかった構想を元に、4月から朝日新聞別刷りbeで作家の桜庭一樹さんによる小説の連載が始まる。生命をめぐる壮大な物語の全容を振り返る。

 生き血を飲むと不老不死になるとされて人々に追われたり、罰や使命として登場人物を不死身にしたり。火の鳥を中心に古代からはるか未来、日本から宇宙のかなたまで、いくつもの物語が展開される。手塚は生前、テーマについて「いつの世にも変わらぬ人間の生への執着、それに関連しておこるさまざまな欲の葛藤」とつづった。

 1954年から88年まで、断続的に書き続けた。「力の入りようが違う気がした」と、手塚の長男でリメイク作品の監修などにも携わる眞さん。「描く中でテーマが深まっていったのだと思います」

 50年代に2作を連載後、火の鳥を「狂言回し」に、日本の歴史を描く大河ロマンとして構想を改めた。67年、3世紀のヤマタイ国を舞台に不死の力を求める権力者や国同士の争いに翻弄(ほんろう)される人々を描いた「黎明(れいめい)編」を発表。さらに35世紀以降を描く「未来編」で全体の枠組みが示された。人工頭脳に支配された都市国家が核戦争を起こし人類は滅亡。30億年後再び誕生した人類はやはり火の鳥を追う。

 その後、過去と未来を舞台にした作品が交互に発表され、次第に現代に近づく。鉄腕アトムを登場させる構想もあったという。眞さんは、「長年描き続けたのが、火の鳥と鉄腕アトム。最後はその二つの世界を融合させたいと考えていたのでしょう」と話す。

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 各作品は基本的に独立した物語だが、大きな鼻を持つ「猿田」は名前を変えて何度も登場するキャラクター。外見の醜さに苦しみ、女性に愛されないなど不遇さが際立つ。「鳳凰(ほうおう)編」の我王は、火の鳥に子孫が業にさらされる様子を見せられる。社会学者の大澤真幸さんは、「すべての生命を包括する火の鳥に至るまでには、猿田の鼻のような具体的な苦しみがある。火の鳥で感動的なのは、むしろその細部ではないか」とみる。「繰り返し挫折し、苦しみが反復される。いわばままならぬ鼻の連続。その無念さが次の人に引き継がれ、満たされなかった願望が漂っている」

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 表現面でも様々な挑戦が盛り込まれた。芝居の書き割りのように横長のコマを並べた「羽衣編」をはじめ、画面も実験的。手塚プロダクションの松谷孝征社長は「黎明編から羽衣編まで『COM』で連載されたことが大きい」と話す。手塚が立ち上げに関わったCOMでは石ノ森章太郎らが新たな表現を切り開き、あだち充、竹宮恵子らが育った。「好きなことが出来た面もあるし、負けていられないという思いもあったはずです」

 手塚が構想していたといわれるのが、「大地編」。日中戦争期を舞台に猿田などが登場する書きかけのシノプシス(あらすじ)を残し、89年に手塚が死去。「火の鳥」は未完に終わった。その構想原稿を元に作家の桜庭さんが4月からbeに連載するのが、「小説 火の鳥 大地編」。再び、火の鳥の物語が動き出す。(滝沢文那)

 ■壮大な物語、高い志 お笑いコンビ「カラテカ」・矢部太郎さん

 昨年、「大家さんと僕」で手塚治虫文化賞短編賞を頂いたとき、「中学の図書室で真剣になって『火の鳥』を読んでいた自分が」とスピーチしました。大きな影響を受けた手塚先生の作品でも特別。スケールの大きさ、過去と未来を交互に描く構成がすごい。

 いまも電子書籍版をタブレットに入れて何度も読み直します。一番好きなのは「未来編」。人に勧めるときは、物語構成のすごさをわかって欲しくて、「黎明編」と合わせて渡すようにしています。まずはまってくれますね。めちゃくちゃにおもしろいのに、生命の大事さや戦争の不毛さを訴える志の高さがある。実は、先日カラテカの単独ライブは「火の鳥」をオマージュして時間を行き来する構成にしたんです。いつかやってみたかった。絶対、誰も気づいていないと思いますけど……。

 <読む> 複数の出版社から発売されている「火の鳥」。昨年新装された角川文庫版は最終稿をデジタル修正してより美しく仕上がった。萩尾望都、しりあがり寿などの描き下ろし漫画も収録。連載当時の大きさで読みたいならB5判の朝日新聞出版。手塚の全集は講談社から出ている。

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