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 「顔の見える新聞」とはどんな新聞でしょうか――。朝日新聞社は「あすへの報道審議会」を2月23日、東京本社で開きました。淡々と事実を伝える記事。記者を前面に押し出して共感を広げる記事。求められる新聞のあり方について、読者とパブリックエディター(PE)=キーワード=が本社編集部門と話し合いました。

 <パブリックエディター>

 ◇河野通和(こうのみちかず)さん ほぼ日の学校長、編集者。1953年生まれ。

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 ◇小島慶子(こじまけいこ)さん エッセイスト、タレント。1972年生まれ。

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 ◇湯浅誠(ゆあさまこと)さん 社会活動家、法政大教授。1969年生まれ。

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 ◇山之上玲子(やまのうえれいこ) 朝日新聞社員。前・編集担当補佐。1962年生まれ。

 ■書き手への共感が信頼に

 皿井進さん(読者) 新聞の顔は1面だと思う。ニュースは客観性や公正性が大切で、1面には客観的に大事な出来事が載っているからだ。でも妻はまず社会面を読む。「こんなことが起きて、こんな心模様がある。自分ならどうしよう」と、記事を「自分ごと」として考えている。その違いもおもしろいと思う。

 畑千穂さん(読者) 私は生活面のひととき欄など、身近な感じがする記事から読む。人の心の機微を描く社会面の企画「窓」や声欄など、普通の人の声やドラマが見えてくる記事こそ新聞の魅力であり、事実や主張を伝えるというのとは別の「読者とつくる新聞の顔」が見える。

 佐古浩敏ゼネラルエディター(GE)兼東京本社編集局長 朝日新聞はいま「信頼と共感のジャーナリズム」という旗を掲げ、記者の署名が入った記事も増やしている。これまでは客観性や正確性を重視する一方、親しみにくいともいわれてきた。いま目指すべきは、「親しまれ、共感され、客観性も高い」記事だ。

 羽根和人・大阪本社社会部次長 財務省の公文書改ざん報道=メモ(1)=では、デスクとして原稿の取りまとめをした。一連の記事に記者の署名はない。いわば「顔のない」記事だ。むしろ事実に徹した記事を書くため、自分たちの思いを取材に持ち込まないようにした。少しのほころびもないよう、力を込めた記事に、多くの読者から応援をいただいた。

 佐古GE 署名がなくても、記事に熱量が感じられれば共感を呼ぶ。

 小島慶子PE 熱量とは?

 佐古GE 事実を追求する強い問題意識だ。

 湯浅誠PE 迫力とも言えるだろうね。

 夏原一郎パブリックエディター事務局長 最近は客観的な記事とともに取材記者自身の迷いや不安を合わせて書くスタイルがある。

 小島PE 今や、正確な事実を書いてさえいれば信頼されるとは限らない。読者は「この記事を書いている記者は、自分と同じような人間だ」と共感して初めて、書き手を信頼する。

 松下幸之助さん(読者) 記者の思いや意見が込められた記事も「顔の見える新聞」だ。「なるほど」と思える事実に記者の考えが加わることで、読み手は自身の思いに改めて気づかされる。ただ、事実と記者の思いははっきり分けて読みたい。

 ■葛藤や揺れ、読み手に響く

 湯浅PE 「朝日新聞の顔」はある種の多様性だと思う。声を上げにくい人の思いをすくい、権力に不都合な事実を暴くなど社会の多様性を担保する顔だ。だがそれが十分に読者に通じず、「上から目線できれいごとを言う」ともみられている。記者は「良質な記事を出せば終わり」ではなく、もっともがいてもいいのではないか。

 山之上玲子PE 朝日新聞が抱く自画像と外から見る朝日新聞像にズレがあるならば、朝日新聞は自らをどんな顔にしていきたいのか、もっと外に伝えていくことも大事だ。

 河野通和PE 朝日新聞は、個々の読者と、どのように信頼感を紡いでいこうと考えるのか。肩書やブランドがものをいう時代から変わり、今は記者の誠実さや本気度とともに、どんな表情で読者にメッセージを届けようとしているのかも大切になっている。

 湯浅PE 今日のLINEニュースで配信された朝日新聞デジタルのトップニュースは、がんを公表したタレントの堀ちえみさん。紙の新聞の1面トップと全く違う。何を通じて朝日新聞の記事を見るかで、その顔はかなり違って見える。

 小島PE 人間関係にたとえると、紙の新聞は毎日顔を合わせて互いの多面性も理解できる間柄。一方、デジタルは通りすがり。でも、紙にもデジタルにも共通することがある。記者が時に「私は」という一人称で率直な思いをつづることによって、読み手は「自分ならどう思うのか」と気づくきっかけを得られる。

 畑さん 記者が自己開示をする書き方は、優先順位が低いという考え方のあることに驚いた。でも普段は遠い存在の記者が、誰にでもある葛藤や気持ちの揺れを代弁してくれ、そして迷う人たちに一つの選択肢を示してくれる意味は大きい。

 神村正史・根室支局長 病気をしたことをきっかけに「心臓病と走る 100キロマラソンをめざして」=メモ(2)=を北海道版で連載している。実はこれまで、自分を見せる書き方は自己陶酔に陥っているようで、好ましく思わなかった。だが、今回は「体験に基づく記事で説得力がある」と言われ、やってよかった。

 高橋美佐子・東京本社文化くらし報道部記者 父親が他界するまでを「もうすぐ父が死んでしまうので」=メモ(3)=として朝日新聞デジタルに書いた。家族のこんなことまで出す必要があるのか悩んだが、怖いと思っていた介護や親を見送るということが、考えていた以上に豊かなものだと知り、伝えたいと思った。プロの書き手として書きぶりを抑えたが、それでも読者の反響を意識して筆が走ってしまう危うさも感じた。

 ■新たな回路で言葉届けて

 根本清樹・論説主幹 社説は論説委員の合議で中身を決めるので「私」を主語にした書き方はしないが、昨年5月、財務事務次官のセクハラ問題を受けた「沈黙しているあなたへ」という社説では異例なことに私という主語を入れた。被害を受けて沈黙しているあなた、被害を与えて沈黙しているあなた、見て見ぬふりをして沈黙しているあなたに向けたもので、女性論説委員が自らの被害経験をつづった。

 小島PE この社説での「あなたは、私だ」という呼びかけはすごく胸に刺さった。でも、だからこそ、そう書いている「あなたは誰?」「あなたの顔が見たい」と思う。思い切って論説委員の署名を入れることを検討しても良かった。

 山之上PE 「顔が見える」ことが求められる今の時代は、書き方を見直す好機だ。読む人に伝わる書き方を磨き、「人々の役に立つ、人々とともにあるメディア」を目指して欲しい。

 河野PE その際、会社は記者が顔を出すリスクがあることを承知し、守ることも忘れないで欲しい。

 皿井さん 新聞を読んで一番うれしいのは、知らなかったことを知り、新しい考えが生まれるということ。新聞を読んで考え、自分たちの生活が少しでも良くなるような行動につながっていけばいいと思う。

 湯浅PE 読者の外側には、朝日新聞の購読者じゃないけれども言葉と発信ツールを持った多くの人たちがいて、記者が顔を見せることによってそういう人たちと新たな回路が開かれる。その人たちと共に時間をかけ、社会の分断やフェイクニュースが蔓延(まんえん)する現状を打開し、健全な民主主義の発展に資することが求められている。

 小島PE 同感。ファクト(事実)が信じられなくなっている時代には「この人の言うことなら信じよう」とか「この人たちの態度は信用できる」と思ってもらえて初めて、言葉は届く。

 河野PE 人類の歴史において共同体が生き延びてきた過程では、心を共有し、言葉が生まれ、コミュニケーションが図られてきた。メディアは世界の認知を助け、人々の共感をつくる働きをしてきたのだが、新聞は今、読者と愚直に向き合えているかというと、歯がゆい。新聞は何をすべきか、はっきり自覚すべきだ。

 松下さん 「上から目線」との指摘もあるが、階段を一段下りて、共感を得て進めていくことも必要だと思う。

 畑さん 身近な記事に共感して涙を流すこともあるが、その外側の社会で起きていることも、我がこととしたい。わかりやすく深く書くことのできるペンの力で、難しいニュースを「翻訳」し、読者と社会をつなぐパイプを築いてほしい。

 (司会は夏原事務局長)

 ■深い視点と当事者性で、読者と対話を 西村陽一・常務取締役(東京本社代表・コンテンツ統括・編集担当)

 記者はかつて己を殺して記事を書くよう訓練されたが、いまは現場で感じた思い、つまり己をさらけ出す記事も積極的に発信している。注意したいのは、説得力ある記事のためには己の感情を封じ込めなければならない場合が依然数多くあること、自らの体験を活写する記事には読者が押しつけがましいと感じる落とし穴がつきまとうことだ。そこに陥らないようにするものがあるとすれば、記者の視点、取材の継続性、介護や闘病といった当事者性の深さではないだろうか。

 メディアは世界的にも、取材目的の説明、報道手法の開示といった透明性を求められている。権力の不正に向き合う時などは職を賭して情報源を秘匿しなければならないが、紙面、デジタルを問わず、一部媒体や企画を通じて取材過程を明らかにする手法もこの数年実験的に採り入れている。

 こうした試みは読者との対話とつながりを深め、様々な媒体や記者の周りに多様なコミュニティーを築いていくことにつながる。それが我々の目指す信頼回復に寄与すると信じている。

 ■(1)財務省の公文書改ざん報道

 学校法人・森友学園との国有地取引をめぐる疑惑で、財務省の決裁文書が書き換えられた疑いがあることを2018年3月2日付の朝日新聞で報じた。記者の解説や識者の見方など関連記事はあえて付けず、事実関係のみを掲載した。財務省は10日後、14件の文書で改ざんをしていたと認め、公表。国会議員秘書から取引について照会を受けていたとの記載や、安倍晋三首相の妻昭恵氏をめぐる記載を文書から削除したことが明らかになった。一連の報道は今年度の新聞協会賞を受賞した。

 ■(2)「心臓病と走る 100キロマラソンをめざして」

 2013年9月に突然の胸痛に襲われ、心臓の冠動脈狭窄(きょうさく)との診断を受けた神村正史・根室支局長が治療の一環で有酸素運動のジョギングに取り組み、17年夏にはサロマ湖100キロウルトラマラソンを完走した。当初は20~30メートルも走れば苦しかったが、「なぜ走れるのかに驚き、自分の体に何が起きているのかを伝えたいと思った」として18年5月から週1回、北海道版で報告している。妻や主治医らの協力のもと「投薬」「食事制限」「運動」の三本柱の治療に取り組んでいる。

 ■(3)「もうすぐ父が死んでしまうので」

 父親に膵臓(すいぞう)がんが見つかってから他界するまでの3カ月間を、高橋美佐子記者がつづったコラム。2018年1月から月1回、朝日新聞デジタルで掲載した(全6回)。肉親の介護と死に直面した戸惑いのほか、在宅死に共感する記事を書いてきたが、当事者になると在宅医療を選べなかった現実に、「在宅でのみとりは選択肢の一つなのに、自分の記事は礼賛ムードを高め、介護を担う家族を追い詰めていたのではないか」と記事中で「告白」した。父親の入院中は毎日、父親の様子をフェイスブックで発信した。

 ◆キーワード

 <パブリックエディター(PE)制度> 社外の人々から寄せられる幅広い声に耳を傾け、日々の報道の改善に生かす目的で2015年4月に設けられた。社外の識者3人と社員1人で構成し、「読者代表」として朝日新聞社の報道を点検し、本社側に説明と改善を求めている。年3回程度開く「あすへの報道審議会」では、テーマを設けてパブリックエディターと本社側が議論する。今回は紙面モニターを経験した読者3人も参加した。

 ◆朝日新聞デジタルの特集ページ「あすへの報道審議会」(http://t.asahi.com/jsks別ウインドウで開きます)でもお読みいただけます。

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