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 自白に頼った捜査は、重大な人権侵害をもたらす危うさをはらむ。そのことを改めて認識しなければならない。

 滋賀県東近江市の病院で16年前、入院患者が死亡した。当時看護助手として働き、殺人罪に問われて懲役12年が確定し、受刑した西山美香さん(39)について裁判をやり直すことが決まった。一昨年末に大阪高裁が再審開始を認める決定をし、検察が異議を申し立てていたが、最高裁がそれを退けた。

 再審では無罪が言い渡される公算が大きい。検察はこれ以上争わず、捜査の問題点の検証に取り組むべきだ。

 西山さんは警察の聴取に「患者の人工呼吸器をはずした」と供述し、目撃証言や有力な物証がないまま逮捕、起訴された。公判では「取調官に誘導された」と無罪を主張。一審の大津地裁は「死因は酸素が途絶えたことによる急性心停止」とした解剖医の鑑定を重視し、供述も信用できるとして殺人罪の成立を認め、最高裁で確定した。

 大阪高裁の再審開始決定は、解剖医の鑑定について「人工呼吸器がはずれていたという警察の情報を踏まえて導かれた」と指摘。西山さんの弁護人が提出した別の医師の意見書を吟味し、不整脈による自然死の疑いがあるとした。

 西山さんの「自白」についても、めまぐるしい変遷を問題視した。取り調べをした警察官に好意をもっていたことや、他人の話に調子を合わせようとする性格にも触れて「処分の重大性に思い至らないまま、警察官との関係を維持しようとして虚偽の自白をしたとも考えられる」と判断した。

 弁護人によると、西山さんは専門医に発達障害があると診断されている。弁護人は「自らを防御する能力が弱く、捜査当局が欲しい供述を簡単にとれる『供述弱者』だった」と語る。

 取り調べを巡っては、西山さんの逮捕・起訴後に、録音・録画の試行が始まった。密室での強引な取り調べを防ぐ狙いで、対象の拡大や義務化など順次強化されてきたが、容疑者らが何らかの理由で捜査に迎合し、関係者もそれを見落とす事態をどう防ぐか。課題は少なくない。

 逮捕から15年。早期の無罪確定を訴えている西山さんは、20代から30代にかけての貴重な時間を奪われた。一度傷ついた名誉の回復はたやすくなく、失った時間は取り戻せない。

 警察と検察は自白偏重の捜査を戒め、裁判所が捜査をチェックする。冤罪(えんざい)の根絶に向けて決意を新たにせねばならない。

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