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 民政移管に向けた総選挙が行われたとはいえ、これで民主化したというのは尚早だ。

 5年にわたり軍事政権が続くタイで政治活動が解禁され、24日の投票が無事に終わった。

 下院定数500のうち、小選挙区350の暫定結果が出た。反軍政のタクシン元首相派の政党が第1党となる見通しだ。

 ところが、5月に予定される国会では、陸軍司令官として政変を主導したプラユット暫定首相が新首相に選ばれ、続投する可能性が濃厚になっている。

 そんな奇妙な構図になるのは、2年前に軍政下で公布された憲法により、軍の実権が守られる制度になっているからだ。

 上院議員は事実上すべて軍政による任命である。これまで下院だけで選んでいた首相は、上院250人と下院500人の計750人で決める。親軍政派は下院で議席の4分の1を超えれば、首相の座を確保できる。

 今回の選挙の結果、下院で単独で過半数を得る政党はなく、親軍政派は連立政権づくりに入る意向だ。軍主導の統治がそのまま続く公算が大きくなっているが、それが民意を正しく反映しているとは言いがたい。

 タイでは今世紀に入り、タクシン派と反タクシン派の対立による混乱が続いてきた。背景には、経済発展に伴う貧富の格差拡大がある。

 タクシン派は東北部などの貧しい農村を地盤に選挙のたびに勝利した。軍や財閥、官僚組織などや都市部の中間層を中核とする反タクシン派はタクシン派の汚職体質などを批判した。

 双方の街頭デモは時に過激化し、政府機関がマヒし、死者も出した。「アジアの優等生」といわれた経済にも陰りを与え、その危機感が06年と14年のクーデターを招いた。

 この構造は解消されていない。今回の選挙結果もタクシン派への根強い支持を示した。

 軍は介入の大義名分として「国民和解」を掲げてきた。ならば、民意ときちんと向き合う必要がある。タクシン派をはじめとする反軍政勢力と話し合い、社会階層による分断の解消などに取り組むべきだ。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の要として、タイは地域の民主化や発展を主導してきた。その混乱と民主主義の後退は、周辺国にも悪影響を及ぼすことを自覚してほしい。

 タイには5400社を超す日系企業が進出し、7万人以上の日本人が住む。日本はタイの政権と意思の疎通を図りながら、真の民主化に向かうよう促す必要がある。

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