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 武力で奪った領土について主権を唱えても、認められない。その当然の原則を踏みにじるのは由々しい事態だ。

 トランプ米大統領がまたも、国際秩序を乱す行動に出た。イスラエルが隣国シリアから奪って占領しているゴラン高原について、イスラエルの主権を正式に認める文書に署名した。

 占領が始まったのは、1967年の第3次中東戦争の時で、81年には一方的に併合を宣言した。国連安保理決議はこれを無効とし、米国を含めて国際的にイスラエルの主権を認めた国はない。

 歴代の米政権が貫いてきた政策を覆すだけでなく、国際的な「法の支配」に反する。今後の米外交の基盤を掘り崩す無責任極まりない振るまいである。

 自ら安保理決議を無視するのであれば、決議違反だとして北朝鮮に制裁を科し、イランのミサイル発射実験を非難してきたことと整合性がとれない。力ずくの国境変更を認めれば、2014年にロシアが一方的にクリミア半島を併合したことを批判する論拠も揺らぐ。

 長年の紛争を抱える中東情勢への悪影響も懸念される。

 イスラエルに占領地からの撤退を求めた安保理決議は、中東和平交渉の土台である。それをないがしろにするトランプ氏は、中東の安定を模索する意思も、和平の仲介役を果たす資格もないことを示した。

 アラブ連盟は「国際法を完全に逸脱している」と批判した。イスラエルとアラブ諸国の溝はさらに深まり、地域がより不安定化することは免れない。

 署名にはイスラエルのネタニヤフ首相も同席し、「トランプ大統領より偉大な友人を持ったことがない」と持ち上げた。

 来月に総選挙を控えるネタニヤフ氏は、汚職疑惑で苦境に立たされている。ゴラン高原の主権承認は、トランプ氏が盟友とするネタニヤフ氏への追い風になるのは間違いない。

 だが、目先の内政上の都合を優先させ、周辺国との関係を悪化させることは、決してイスラエルの長期的な利益にはならないことを理解すべきだ。

 日本は中東の安定のため、民生支援を中心に地道な外交を重ねてきた。しかし、米国による短絡的な方針転換は、そうした努力を吹き飛ばしかねない。

 菅官房長官が「イスラエルによるゴラン高原の併合を認めない」と述べたのは当然だ。今後3カ月で3度も日米首脳会談を予定している安倍首相は、トランプ氏の短慮をいさめる必要がある。

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