[PR]

 最先端の科学技術の研究にデザインのもつ力を取り込み、新たな風をおこそうという試みが日本でも広がり始めた。研究現場に、デザイナーの異なる視点を加えることで、新たな気づきや付加価値を生み出していくのが狙いだ。

 東京・駒場にある東京大学生産技術研究所には、ロンドンからやってきたデザイナーたちが集う研究室がある。英国の王立芸術大学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)と生産研が2017年に共同で立ち上げた「デザインラボ」だ。

 生産研がもつ最先端の科学技術やアイデアを、デザイナーの想像力や発想力を利用して形にし、実用化につなげていく。異分野の人材や情報の融合で、今までになかった技術革新を起こそうという試みだ。

 活動のひとつが、生産研の研究室を訪ね歩いての「宝さがし(トレジャーハンティング)」と、技術の将来像を形にする「プロトタイプ」の作製だ。

 生産研には大型の機械工学から微細加工、バイオ、コンピューター工学まで100を超す研究室がある。デザイナーがそこから気になる技術やテーマをピックアップ。研究者たちと2~3カ月かけてアイデアを出し合い、数年後の「近未来」や、数十年後の「遠未来」に実用化された姿をイメージしたプロトタイプを完成させる。

 研究室を主宰するマイルス・ペニントン教授は「まずは研究室の中にある先端技術の未来を、大学の外に向かって発信することから始めた」という。

 例えば「さっしがいい機械」。動作や視線の動きから、その人がやりたいことを察知して、明かりをつけたり、ファンを回したりする。画像認識を使った行動予測モデルを開発する佐藤洋一教授の研究から近未来に実現しそうな機械を考えた。

 「共感器官」は、人の汗のにおいに反応する蚊の嗅覚(きゅうかく)器からセンサーを開発した竹内昌治教授の研究に触発された。遠い将来、人の汗のにおいから感情を読み取り、同じ感情を共有できるようになるかもしれない。

     *

 なぜ大学の先端研究にデザインが必要なのか。ラボ開設に携わった山中俊治教授は、社会と科学技術の関わり方、特に大量生産を前提とした生産技術への反省があるという。

 もともと工業分野でデザインの役割が確立したのは20世紀の初頭、自動車の登場など大量生産と軌を一にする。

 20世紀後半、その大量生産システムが環境問題を引き起こす。技術進歩に伴う多機能化が製品の使い勝手を損ねたり、障害がある人たちに量産品が対応できなかったりする課題も認識されるようになる。

 技術を受け身で使うのでなく、どう使うか、何が必要か。「研究開発のもっと上流でデザインが必要という認識が欧米に広がっていった」と山中さん。「いまでは米国の総合大学にはデザイン学科がごく当たり前にある。その流れに日本は乗り遅れていた」と指摘する。

 一方、RCAは、アート・デザイン分野で世界トップクラスの実績をもつ。ファンの見えない扇風機やドライヤーなど、新規技術で知られるダイソン社の創業者、ジェームズ・ダイソン氏もRCAの出身だ。

 東大への移籍前、RCAの学科長だったペニントンさんは「RCA自体は小規模な大学で、生産研のような研究所があるわけではない」。各地の研究機関や技術系大学と提携した拠点づくりを計画中に出会ったのがデザイン人材を求める東大生産研だったという。

     *

 デザインの視点を取り込む動きはほかにもある。

 産業技術総合研究所は、ロボットやセンサー、バイオ工学などを束ねて新設した人間拡張研究センター(千葉県柏市)にデザイン専門のチームを立ち上げた。企業の研究者らを対象としたデザインスクールも開設。最先端技術の流れを知るだけでなく、世界の変化や未来の可能性を俯瞰(ふかん)し、実現可能なアイデアを練り上げる。そんなノウハウを学び、チームを束ねていくリーダーの育成もめざすという。

 ロボット研究者でもある大場光太郎・デザインスクール準備室長によると、ロボット開発では、日本と欧州メーカーの設計手法の違いが目立つ。機能を追求する日本に対し、欧州メーカーは必要な機能は何かを突き詰め、最小限の機能で使いやすさを重視する。実用化の段階で選ばれるのは、単機能の欧州製が多いという。

 大場さんは「多機能でも使われなければ意味はない。研究者目線ではなく、使う側の目線での設計・デザイン手法を、日本は学んでいく必要がある」と話す。(田中郁也)

 <「設計図公開」の試みも> 東大生産研のデザインラボでは研究のあり方そのものを変える試みとして、安価な海洋環境センサーの開発も始めた。プラスチックの密閉容器に太陽電池やGPS、通信装置などを組み込む。設計図を公開し、市販の部品でだれでも組み立てられる。市民参加型の世界的な観測網作りをめざす。

 <訂正して、おわびします>

 ▼8日付「科学の扉・未来創る異分野タッグ」の記事で、本文中に「先端研」とあるのは「生産研」の誤りでした。東京大学生産技術研究所を略して書く際に間違えました。

こんなニュースも