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 東京・上野の東京都美術館で23日に開幕する「クリムト展 ウィーンと日本1900」は、ウィーン世紀末の巨匠グスタフ・クリムト(1862~1918)と同時代の画家の作品をあわせ、計約110点を紹介する。うちクリムトの油彩画だけで日本では過去最多の25点以上が集結。その創作を読み解くテーマごとに会場に並び、大きな見どころとなる。各テーマを代表する珠玉の名画を紹介する。

 ■「生と死」の円環、きわめ続け

 人間の「生と死」はクリムトにとって重要なテーマだった。「リア・ムンク1」は知人の若い女性の亡きがらを表した作品。亡くなった人を描くことは画家の伝統的な仕事の一つで、珍しいことではなかった。

 一方、人の誕生や命が宿る瞬間についても描こうとするクリムトへの風当たりは強かった。彼は「生」を表現するために男女の性愛や女性の妊娠した姿を描いたが、それは当時、大変なタブーだったのだ。

 「クリムトは『死とエロスの画家』と評価されがちです」とマークス・フェリンガー学芸員は語る。「しかし実はその先の概念、つまり受胎から死ぬまでの人間の命の旅路、生命の円環を探究しました」

 「女の三世代」でクリムトはまさに、生命の円環というテーマを一つの画面で表している。眠る幼児と若い女性の裸体が花々に彩られ生命力あふれる一方、背後の老女は枯れた身体にうなだれた姿勢で死の影をまとう。人体表現のみごとな描き分けで、一生の各段階での生命の姿を象徴的に表現してみせた。

 ■女性をいきいきと

 「私は自分に関心がない。他の人間、とりわけ女性に関心がある」と語ったクリムト。肖像画でも女性を描くことを得意とした。

 注文したのはウィーン社交界の夫人たち。例えば「オイゲニア・プリマフェージの肖像」のモデルは裕福な銀行家の妻だった。落ち着いたまなざしが知的な一方、透き通るような肌と上気した頬がほのかに艶(つや)めき、鮮やかな黄色の背景と彩り豊かなドレスが彼女の存在を明るく引き立てる。

 本展を監修したベルベデーレ宮オーストリア絵画館のマークス・フェリンガー学芸員によれば、実際の上流階級の女性たちは厳格なしきたりの下、窮屈な立場にあった。クリムトは、絵の中で逆に彼女たちを生き生きと解放してみせる。それが彼の女性像の魅力であり、肖像画家としての成功の秘訣(ひけつ)だったという。

 ■癒やしの風景画

 女性像で知られるクリムトだが、多くの風景画も残している。生涯約250点描いたとされる油彩のうち、60点近くが風景画だ。

 色を混ぜずに純色の点を隣り合わせて、点描のように景色を描く。モネら同時代の印象派の影響を受けた。しかし光を表現しようとした印象派と違い、建物や植物の形を単純化することに興味があったようだ。正方形のキャンバスを好み、画面全体を幾何学模様のように再構成。独自の様式を生み出した。

 内向的だったとも言われるクリムト。モデルが必要な女性像の制作に、気疲れすることもあったらしい。休暇中は癒やしを求めて、風景画しか描かなかったと伝えられている。

 ■日本美術への憧れ

 19世紀末のウィーンでは日本文化のブームが起こっていた。「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」は、若きクリムトも日本美術に憧れていたことがわかる作品。

 親しい女性エミーリエをみずみずしく描き、梅の枝や草花をちりばめた金の額で縁取った。装飾で埋め尽くさず、あえて金地を残す「余白の美」が、日本のびょうぶ絵を連想させる。

 クリムトの探究心は熱を帯び、浮世絵や甲冑(かっちゅう)、着物など、日本の美術品も集める力の入れようだった。

 「女ともだち1(姉妹たち)」にも、クリムトの研究成果が表れている。極端に縦長の画面に2人の女性の立ち姿を描く構図は、江戸時代の浮世絵の美人画に着想を得たようだ。画面左下に配された市松模様も、日本的な柄としてクリムトや彼の仲間たちに好まれた。

 ■家族との強い絆

 クリムトは独身を貫いたが、家族との絆は強かった。父は金工の職人で、2人の弟もそれぞれ画家と彫金師。特に2歳年下の弟エルンストとは、共に劇場装飾などの仕事を受けた。

 クリムトが30歳の年、父に続いてエルンストが急死してしまう。共同制作はできなくなり、クリムトは新たな創作活動を模索することとなった。やがて「ウィーン分離派」を結成する。

 「ヘレーネ・クリムトの肖像」は弟の忘れ形見である6歳のめいを描いた作品。それまでの伝統的な表現では使わなかった明るい色の背景や素早いタッチの白いドレスに、新たな表現を試す意欲が見える。

 父と弟の死後、クリムトはヘレーネの後見人を務め、病気がちだった母や妹2人と生涯共に暮らした。

 ■「黄金様式」で新たな表現

 クリムトは新たな理想の芸術を生み出すため、1897年、仲間と「ウィーン分離派」を結成、保守的な画壇を離れた。「ヌーダ・ベリタス(裸の真実)」はその決意を表した作品。描かれるのは裸身で真実を映す鏡を掲げる女性。頭上には、シラーの言葉「汝(なんじ)の行為と芸術をすべての人に好んでもらえないのなら、それを少数に対して行え」が金色の画面に刻まれる。

 金による装飾は、体制にあらがうクリムトが生み出した新たな表現だった。画面上下に大胆に金地を配置、金の渦巻き模様で背景を飾った。

 「ユディト1」で金の使い方はさらに進化する。「裸の真実」では金色の絵の具を使っていたが、「ユディト」には本物の金箔(きんぱく)を貼り込んだ。イタリア旅行で見たビザンチンのモザイク画や、日本美術が金箔を使っていたことに影響された。代名詞ともいえる「黄金様式」の幕開けである。

 もっとも金箔や銀箔(ぎんぱく)の扱いには苦労したらしい。制作が遅れ納期に間に合わなかったり、銀が酸化して変色してしまったりしたこともあったようだ。

 ■23日から東京都美術館で

 ◇23日[火]~7月10日[水]、東京・上野の東京都美術館企画展示室。午前9時30分~午後5時30分(金曜は午後8時まで)。入室は閉室の30分前まで。5月7日[火]、20日[月]、27日[月]、6月3日[月]、17日[月]、7月1日[月]は休室

 ◇一般1600円(前売り1400円)、大学生・専門学校生1300円(同1100円)、高校生800円(同600円)、65歳以上1千円(同800円)、中学生以下無料

 ◇展覧会公式サイト https://klimt2019.jp別ウインドウで開きます

 ◇問い合わせ ハローダイヤル(03・5777・8600)

 主催 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、TBS、ベルベデーレ宮オーストリア絵画館

 後援 オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム

 協賛 ショップチャンネル、セコム、損保ジャパン日本興亜、大日本印刷、竹中工務店、トヨタ自動車、三菱商事、パナソニック、みずほ銀行

 協力 全日本空輸

 ※7月23日[火]~10月14日[月][祝]、愛知・豊田市美術館に巡回

 ※本展の図録(2500円)は、通販サービス「朝日新聞SHOP」(https://shop.asahi.com/別ウインドウで開きます)または通販サイト「セブンネットショッピング」(https://7net.omni7.jp/別ウインドウで開きます)でも販売します

    ◇

 1.ローマ国立近代美術館蔵 Roma, Galleria Nazionale d’Arte Moderna e Contemporanea. Su concessione del Ministero per i Beni e le Attivita Culturali

 2.個人蔵

 3.9.ベルベデーレ宮オーストリア絵画館蔵 (C)Belvedere,Vienna, Photo: Johannes Stoll

 4.豊田市美術館蔵

 5.ツーク美術館蔵(カム・コレクション財団から寄託)

 6.クリムト財団蔵 Klimt Foundation, Vienna

 7.個人蔵 Photo Austrian Archives / Scala, Florence/DNPartcom〈この作品のみパステル画〉

 8.ベルン美術館蔵(個人から寄託) Kunstmuseum Bern, loan from private collection

 10.オーストリア演劇博物館蔵 (C)KHM-Museumsverband, Theatermuseum, Vienna

 ◆この特集は高木友絵が担当しました

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