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 交渉には歩み寄りが要る。立場の違いを認めた上で妥協を探る知恵が試される。今のロシアにはその意欲すら見えない。

 今月末のプーチン大統領の訪日を前に、東京で日ロ外相会談が開かれた。昨年来、焦点とされた領土問題を含む平和条約交渉の展望は開けなかった。

 安倍首相は昨秋、方針を転換した。北方四島の返還要求のうち、当面は歯舞、色丹に絞ることにした。日本が長年堅持した原則からの大きな譲歩だった。

 だが、ロシア側は入り口で条件をつけて、実質的な交渉に入れないままだ。

 条件は2点に集約できる。

 (1)第2次大戦の結果、四島がソ連(その後ロシア)の領土となった事実を認めよ(2)在日米軍を含む日米安保体制へのロシアの懸念を解消せよ――。

 歴史認識と現在の日本の安保政策の根幹に要求を突きつけ、一歩も動かない。そんなかたくなな姿勢では積年の問題が解きほぐせるはずもない。

 歴史をめぐる対立について、どう折り合うかという問題は、戦後日本の近隣との国交交渉でも焦点となってきた。

 韓国とは、1910年の韓国併合が合法的に行われたかをめぐり論争が続いた。最終的には「もはや無効である」という玉虫色の表現で折り合った。

 70年代の中国では、国民の間で戦争の記憶が強かった。だが当時の周恩来首相が「大多数の日本国民は、一部の軍国主義者による被害者だった」との見解を打ち出し、説得した。

 いずれの妥協も、後世に火種を残した面はあったとはいえ、関係正常化が国益にかなうと当事国が確信していたからこそ、編み出された知恵だった。

 残念ながら今のロシアからは、日本との関係改善への信念は感じられない。

 日米安保について、ロシアは90年代後半には、アジア太平洋の平和と安定に資するとして評価する考えを示していた。

 だが今は、日本との交渉を、日米関係を揺さぶる手段として考えているかのようだ。

 ロシアが対米牽制(けんせい)に固執せざるを得ない理由の一端は、ロシア自身にある。クリミア半島の併合や、近隣国の分離独立勢力への支援、国境地域での軍備増強などが緊張を高めている。

 ロシアは周辺を脅かす振るまいを改め、米国と建設的な関係を築くべきだ。日欧など米国の同盟国と溝がある限り、ロシアの繁栄と安定は望めない。

 一方の日本側は、打開を焦った外交の甘さを見つめ直すべきだ。ロシアの出方を読み誤り、領土をめぐる基本線を安易に曲げてしまったのならば、稚拙のそしりは免れない。

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