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 東洋と西洋が出合う多彩な文化と経済の拠点都市・香港。その活力は、歴史に培われた自由の風土から湧き出ている。

 その大切な土壌が枯らされてしまうのではないか。いま多くの香港市民の胸中には、そんな危機感が強まっている。

 100万人といわれる民衆のデモが先日、中心部を埋め尽くした。香港政府がすすめる条例の改正案に抗議している。

 「逃亡犯条例」と呼ばれ、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことに道を開く内容だ。共産党政権が弾圧に使っている司法制度が香港に入り込む事態を、人々は恐れている。

 1997年の香港返還の際、中国は50年間、「高度の自治」と「一国二制度」を守ると内外に約束した。香港市民の民意のうねりを無視するならば、国際社会への背信でもある。

 香港政府は改正案を撤回するのが、自治の精神にかなう行動だ。中国の習近平(シーチンピン)体制は、香港政府を介した強権の発動を即刻やめるべきである。

 香港は約20カ国と容疑者引き渡しの取り決めを交わしているが、中国となれば話は別だ。その拒否感を市民に植え付けたのは他ならぬ習体制である。

 近年、香港の法を無視する行動が増えた。共産党に都合の悪い出版を計画した書店関係者らが失踪し、後に中国で拘束されていた事件もあった。

 香港人の多くは、中国に親戚がいたり、中国とのビジネスで生計を立てたりしている。共産党ににらまれたら、誰でもいつでも連行されかねない、との不安を抱くのは無理もない。

 香港では5年前にも「雨傘運動」と呼ばれる街頭運動がおきた。行政長官の選挙制度をめぐる活動だったが挫折に終わり、以降、民主化をめぐる香港の世論は冷めたといわれていた。

 それが今回、政治的な問題に慎重だった人々も含め、広範な運動に拡大した。それだけ条例改正は香港の社会を一変させる一大事ととらえたのだろう。

 中国政府は、これまで香港の街頭活動に対し、自治の尊重を確認し、自らの影響力を際立たせることは控えていた。ところが今回は条例改正への「支持」を声高に示している。

 中国国内での言論統制は相変わらずだ。こうした香港の動きについて、中国メディアは伝えない。中国本土から香港、そして台湾にも及ぶ習体制の圧力強化を前に、国際社会は沈黙してはならない。

 米国、欧州連合、英国、カナダなどの各政府は、条例改正への懸念を表明した。自由と民主主義の価値観を共有する先進国を標榜(ひょうぼう)するなら、日本も明確に態度表明すべきである。

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