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 出版不況の中、全国の書店に本を届ける取次会社が苦境に陥っている。業界最大手が昨年度決算で19年ぶりの赤字となるなど、流通構造の変化に対応が追いついていない。日本の出版文化を支えてきた流通網がほころび始めている。

 今年4月、ある出版社が公表した試みが業界内で話題を呼んでいる。自社の利益を削って、取次会社や書店の取り分を増やそうというのだ。

 歌人で作家の故辺見じゅんさんが設立した幻戯(げんき)書房(東京)。常駐のスタッフは社長を含めて3人だ。手仕事の香りが残る丁寧な造本がなされ、読売文学賞など権威ある文学賞にも選ばれてきた。

 書籍の定価に対する卸値の掛け率は「正味」と呼ばれる。出版社の規模や歴史によって異なるが、一般的に出版物の売り上げは出版社(著者を含む)7割弱、書店2割強、取次1割弱の割合で分配されてきた。同社は、68%から原則60%に引き下げると、正味を公にしたうえで、自ら取り分を下げるという異例の方針を示した。

 「取次や書店が機能不全に陥れば、読者に本が届かない状況になってしまうことが懸念される。何かしないといけないと思い、問題提起になれば、と声を上げた」。田尻勉社長の決断には、そんな危機感がある。実際、5月に公表された取次大手の決算では、厳しい数字が並んだ。

 最大手の日販グループは2019年3月期決算が19年ぶりに赤字。業界2位のトーハンも連結決算で、前年比で30%の減益だった。

 ■背景に雑誌不振

 不振の背景は、ピーク時の半分以下となった雑誌の売り上げ減だ。日本の出版流通は、大量の雑誌を発売日に合わせて一斉に全国の書店に届ける際、「ついでに」送ることで書籍の配送コストを吸収する仕組みで機能していた。売れ残れば返品できる慣例があり、その割合が約4割にのぼる現状もこうした仕組みが支えてきた。

 さらに近年は、人手不足で配送ドライバーの賃金が上がり、業績悪化に追い打ちをかけている。

 取次は全国約3千の出版社と1万数千の書店をつなぎ、年間推定約28億冊近く市場に出回る書籍・雑誌を届ける役割を担ってきたが、こうした配送網を維持するのが難しくなりつつある。

 日販は昨年11月から、高知県の一部地域では、運送業者と料金面で折り合いがつかず、宅配便で届けている。後継業者を探しても、提示される運賃は宅配便より高い状態だ。

 北海道では今年4月、コンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマ(札幌市)と提携した。セイコーマートなど約1150店舗への配送で、セコマグループの配送網を使うことにした。日販が北海道で配送する店の半数弱にあたるという。

 日販、トーハン両社とも経営の立て直しに、雑誌配送に伴って出版社から支払われる「運賃協力金」の引き上げを要請している。日販は150以上の出版社が前向きに検討しているとの回答だったといい、トーハンは内容は非公表だが、235社から回答を得たという。

 さらに、出版社に書籍の値上げを求めていて、読者の負担増につながる事態も予想される。ただ、出版社側からは「寡占状態にあぐらをかいて、新たな収益源を見つけてこなかった。今頃泣きつかれても困る」(大手出版社幹部)と不満もくすぶる。

 ■収益源探る試み

 取次側も手をこまねいているわけではなく、新たなビジネスモデルを探っている。

 トーハンは5月、若年層に人気の文具メーカー「デルフォニックス」を子会社にすると発表した。日販も昨年12月、東京・六本木に入場料1500円を支払う書店「文喫(ぶんきつ)」を開店。売り場には約3万冊が並び、あえてバラバラに並べることで思わぬ本との出会いを仕掛けている。

 出版事情に詳しいライターの永江朗さんは「日本の取次は、雑誌ありきで成り立ってきたが、欧米では出版社と書店との直取引が主軸。日本でもこうした形が広がっていくのではないか。書店という販売拠点を使った、総合流通業への衣替えを目指していくしかないだろう」と話す。(宮田裕介)

 <訂正して、おわびします>

 ▼12日付文化・文芸面「本の取次苦境」の記事にある図中の写真説明で「日版の王子流通センター」とあるのは、「日販の王子流通センター」の誤りでした。作成時に間違え、点検でも見落としました。

 

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