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 全国各地を飛び回る中で、魅力的な地域の宝に出会うことも少なくない。うちの地域には取り立てて何もない――。そうため息交じりに語る人も多いが、ちょっと視点を変え、取り上げ方を工夫するだけで地域の宝になるような資源は結構あるように思われる。世界遺産や国宝級でなくても、まだまだ地域に宝は埋もれているのだ。新たな時代の地域の宝探しはこれからである。

 先日、長野市の家から30分ほど歩いたところにある八櫛(やくし)神社の春季例大祭に知人に誘われて参加した。別名ブランド薬師と呼ばれている。山の急な崖の岩穴に、木材3本を打ち込んで社殿が建てられたもので、清水寺と同じ懸崖(けんがい)造りだ。堂が揺れやすいことからブラン堂の名が生まれたと言われている。その外観は鳥取県三朝(みささ)町にある国宝の三徳山三仏寺投入堂(みとくさんさんぶつじなげいれどう)に決して負けないと感じるのは私だけだろうか。創建は9世紀初頭で、このような急斜面に社殿を構築した先人の労苦がしのばれる。

 近くを通る真光寺ループ橋からも空に浮くような姿を垣間見ることができる。晴れた日には、社殿からは志賀高原の山々も見渡せる。道沿いの仏像をめでながら北に下っていくと一時期物議を醸した浅川ダムがある浅川地区にたどり着く。

 周辺には棚田もあって、春は桃源郷の趣もある。このような魅力的な地域が長野市の中心から車で簡単に行けるのも地方都市の魅力だ。住民組織の働きかけもあってブランド薬師が市の文化財に指定されたのは1年ほど前のことだ。地元の宝がまだまだ十分認知されていないケースは少なくないのだ。

 善光寺の裏山に位置する地附(じづき)山にもお宝が眠っている。高度経済成長期には遊園地やスキー場が造られ、ちょっとしたリゾート地だったが、今では廃虚となり、それがかえって哀愁を漂わせていて、往時のにぎわいがしのばれる。ハイキングコースも整備され、頂上からは飯縄山などの眺望も楽しめる。こんなところに山城や前方後円墳があったということも新鮮な驚きだ。

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 17年暮らした新潟にもお宝は数多く眠っている。新潟大学からも歩いて行けるところにある川の立体交差のことを知らない市民が意外と多かったのは驚きだった。

 新潟の穀倉地帯を水害から守るために完成したのは今から約200年前のことだ。初代は西川の下に木製の樋管(ひかん)を埋めて、そこに人工の放水路である新川の水を流すものだった。その後、2度の改修を経て現在に至っている。日本海側に流れる新川の上にトラス橋に流れる西川が垂直に交差している様はなんとも不思議な感じがする。全国に川の立体交差は幾つかあるが、このように一目で分かりやすい形となっていて、かつ大規模なものは他にはないのではないだろうか。

 土木マニアには知られていても、多くの人に知られているとは言い難い。このようにもっと多くの人に認知されるべき土木遺産は全国各地にみられる。新潟県中越地震で大きな被害を受けた長岡市の旧山古志村地区には、手掘りの道路トンネルとしては日本最長の中山隧道(ずいどう)がある。豪雪地帯で冬場に交通が断絶しがちなために戦前から戦後にかけて建設されたものだ。

 ブランド薬師と川の立体交差、そしてこの中山隧道に共通するのは地域住民の力で難工事が成し遂げられたということだ。どれも地域に根差した人々の願いと努力の結晶が実ったものなのである。あと4年弱で北陸新幹線は福井まで延伸し、2027年にリニア新幹線が名古屋まで開通する。新幹線が通ることで利便性は高まるものの、トンネル区間が長く、車窓からの楽しみは半減する。

 一方、在来線は時間もかかり便数も少ないために利用者の減少が止まらないが、車窓からの眺めは新幹線では味わえない良さが少なからずある。このお宝にもっと光を当てないと、人口減少時代に廃線となるところが続出してしまうだろう。

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 月に数回仕事で群馬県みなかみ町に行く際に、できるだけ利用するのが上越線だ。時間だけ考えれば上越新幹線となるが、車窓からの眺めは断然在来線の方が優れている。高崎駅から乗車して、最初は榛名山や赤城山の山並みが、渋川市に入ると利根川の眺めが楽しめる。渋川市と沼田市の境で利根川を渡る光景は特に見ものだ。その後、利根川沿いを走りながら武尊(ほたか)山や谷川岳が見えてくる。後閑(ごかん)駅の東に位置する三峰(みつみね)山はテーブル状の山容で、アメリカの西部劇の映画で出てくるような山にも似ている。上牧(かみもく)駅を過ぎて利根川の渓流を楽しみながら、運がよければ諏訪峡大橋からのバンジージャンプを目撃することができるのだ。

 地域の宝は、必ずしも最初から万人向きである必要はない。特定の関心を持つ人にまずは認知されて、それが徐々に多くの人の心をつかんでいけば、地域の活性化につながっていく。大事なことは、仮に外部の人間が先に宝の良さに気づいたとしても、地域の人々もその価値観を共有し、自分たちの宝として磨く営みを続けることだ。地域の人々に支えられてこそ、地域の宝は長きにわたり光り輝く。

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 たむら・しげる 1962年生まれ。長野県立大学教授。著書に「地方都市の持続可能性」「『ご当地もの』と日本人」など。

 ◆地域、科学などテーマごとの「季評」を随時、掲載します。田村さんの次回は9月の予定です。

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