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 口封じのために国家ぐるみで記者の命を奪う。そんな蛮行の実態と責任の所在がうやむやのままで幕引きは許されない。

 サウジアラビア人のジャマル・カショギ記者が昨年10月、トルコで暗殺された事件である。

 国連の特別報告者が今週、サウジ政府に責任があるとする最終報告書を人権理事会に提出した。注目すべきは、ムハンマド皇太子の関与をさらに調べる必要性を示す、信頼に足る証拠がある、と指摘したことだ。

 カショギ氏は皇太子の権力を批判していた。絶対君主制のサウジで、高齢の国王にかわり国政を事実上動かしている皇太子の関与はなかったのか、国際社会は強い疑念を示してきた。

 報告書はその疑いをあらためて指摘したうえで、グテーレス国連事務総長に対し国際的な捜査を行うよう、異例ともいえる勧告をした。国際社会は、これに応えなければなるまい。

 グテーレス氏の報道官は、国連による委任がなければ事務総長には捜査を組織する権限はないと原則論を述べた。ならば、国連総会や安全保障理事会で勧告を議論する必要がある。

 事件は情報機関の暴走で起きたというのがサウジ政府の見解である。関与したとする11人を裁判にかけ、うち5人には死刑を求刑した。報告書はこの裁判を中断し、国連主導の捜査に協力するよう求めた。

 サウジ政府は「根拠のない言いがかりだ」と報告書を切り捨てた。だが、事件当初は殺害があったことすら否定しながら、トルコ捜査当局の情報が明らかになるたびに説明を二転三転させた。その経緯から、国際社会が根強い不信感を抱いてきたことを忘れてはならない。

 カショギ氏はサウジ政府からの圧力を逃れるため、米国で言論活動をしていた。その記者の暗殺は米国でも大きな衝撃をもって受け止められた。

 サウジをかばい続けるトランプ大統領に議会は反発している。米上院は昨年末、「ムハンマド皇太子に責任がある」と非難する決議案を与党の共和党も含め全会一致で可決した。

 大阪できょうから開かれるG20首脳会議には皇太子のほか、トルコのエルドアン大統領、グテーレス氏らがそろう。

 カショギ氏の事件に限らず、報道の自由は近年脅かされており、ジャーナリストの投獄や殺害が各地で相次ぐ。世界のメディアでつくる国際新聞編集者協会は安倍首相に対し、議長国として問題提起し、各国に改善を働きかけるよう要請した。

 人権や民主主義などの価値観外交が問われる局面である。安倍首相は顔を背けず、この懸念を正面から取り上げるべきだ。

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