(社説)参院選 アベノミクス 経済好循環の道遠く
かつての金看板はどこへ行ったのだろうか。
参院選にあたっての自民党の公約のなかで、「アベノミクス」が目立たなくなった。2年前の衆院選公約には「アベノミクスの加速」が掲げられていたが、今回は「6年の実績」を示しているぐらいだ。
目的を達成し、役割を終えたというのならいい。だが、データを見ると、掲げていた目標は未達が目につく。
年率2%の物価上昇率目標に届いていないだけではない。6年前の骨太の方針で、目指すマクロ経済の姿とした数値は、GDP(国内総生産)の名目成長率3%程度、実質成長率2%程度だった。だが、過去6年の実績は平均で名目1・8%、実質1・2%にとどまる。
今回の参院選公約や安倍首相の発言で強調されているのは、雇用の回復だ。求人倍率が高まり、失業者が減ったことは事実であり、評価できる。人口動態の要因もあるが、積極的な金融緩和のもとで円高が修正され、企業業績が好転したことの結果でもあるだろう。
だが、雇用の逼迫(ひっぱく)が賃金上昇をもたらし、それが消費を通じて経済の拡大に結びつくという好循環には至っていない。
公約は「6年の実績」として家計の可処分所得の4年連続増加を挙げている。家計の所得から社会保障負担などを引いた値だ。確かに増えてはいるが、年率で見れば0・6%程度。消費増税を含む物価上昇を差し引くと、ほとんど横ばいに近い。
結局、賃金の伸びが鈍く、社会保障の負担と物価の上昇を大きくは上回らないため、消費も勢いを欠くという構図は変わっていない。内需が弱いため、外需の変動の影響を受けやすい体質が続いている。その中で、米中の貿易摩擦を発端に世界経済の不透明感が広がり、景気後退の可能性を示唆するデータもでてきているのが現状だ。
公約はイノベーションの実現や新産業への挑戦などもうたうが、官民の役割の区別があいまいなスローガンの羅列が目立つ。実効性も定かでない。
あれだけ「アベノミクス」を吹聴した以上、いまだに経済の好循環をつくれず、先行き懸念も増していることへの説明責任は大きい。いくら民主党政権時代をくさしても、自ら掲げた目標を達成する道筋が見えていない事実は消えない。
一方、野党の公約には、賃上げの後押しなどを通じて家計の所得を増やすことを前面に出しているものが多い。方向性としてはうなずけるが、どう実現するのか、副作用はないのかといった点について、さらに議論を深める必要がある。
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