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 日本は今月、31年ぶりに商業捕鯨を再開した。国際捕鯨委員会(IWC)から6月限りで正式脱退した翌日、水産庁が新しい捕鯨枠を公表し、下関、釧路から捕鯨船が出港した。領海と排他的経済水域の中で、年末までに200頭余りのクジラを捕る計画だ。

 IWC脱退に伴い中止した調査捕鯨の枠と比べ、今回は対象になる主な鯨種が異なり、全体の頭数も少ない。吉川貴盛農水相が「再開は全国の捕鯨関係者の悲願」と述べる一方、鯨の解体・冷凍施設が整う母船を使った捕鯨をする業者は「希望と不安が入り交じった出港になるのは事実」と話した。

 国の政策としてみたとき、大きな不安が二つある。

 一つは、IWC脱退に続く即座の商業捕鯨再開が、国際関係において他国との協調や法の支配を重んじる姿勢からの後退につながる危険性だ。

 国連海洋法条約65条は、鯨類の保存や管理について「適当な国際機関を通じて活動する」と定める。IWC脱退後の捕鯨がこの要件を満たさないと判断されれば、国際裁判を起こされるリスクもある。

 吉川農水相は1日の出港式後、「訴えるかどうかは他国の政策的判断」だとして、予断をもって答えることは控えると述べた。今後もIWCへのオブザーバー参加などで国際協力を続けるという。水産庁も、新しい捕鯨枠はIWC科学委員会が認めた保守的な算出方法で決めたと強調している。だが、捕鯨関係者の中にも、現状で65条を満たしているとはいいにくいとの見方がある。

 枠公表が再開当日になった理由も、「膨大な計算作業と外国の科学者による検証」「IWC正式脱退に合わせた」などと説明しているが、内外の理解を得る姿勢に乏しい。昨年末の脱退決定も、検討過程を伏せたまま閣議決定し、翌日公表した。一貫してプロセスが不透明で、議論がなさ過ぎる。

 もう一つの不安は「商業」として成り立つかどうかだ。海域も主力の鯨の種類もこれまでと違い、捕れても市場でどう評価されるか未知数だ。「食文化」といっても国内の鯨肉消費量はピーク時から激減している。

 政府は再開が「31年ぶり」であるのを理由に、漁場探査や解体技術の支援に今年度19億円を投じる。だが、補助金頼みが続くのであれば、自立した産業とはいいがたい。

 とくに母船式の捕鯨は、いまの日新丸が老朽化し、後継船が検討されている。そうした投資にまで国が大きく関与するようでは、「商業捕鯨」は看板倒れと言わざるをえない。

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