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 これでは消費者の利益よりも、役所の都合を優先させているとしか思えない。

 肉厚のマダイや栄養成分を強化したトマトなど、ゲノム編集技術を使って遺伝子を操作した食品について、改変した旨の表示を見送る方向で検討が進んでいる。消費者庁が先月、「義務化は困難」との見解を示し、近く最終決定するという。

 厚生労働省はすでに、別の生物の遺伝子の挿入・残存がなく、現にあるDNAの一部を切断して変異を加えるだけなら、「遺伝子組み換え食品」に該当せず、安全性審査も不要とする方針を決めている。

 そうした変異は自然界や既存の品種改良でも起きており、特に問題になっていないというのが理由だ。この措置に消費者団体などは異議を唱えたうえで、「安全性審査をしないのなら、改変の有無がわかる表示は一層必要だ」と主張してきた。

 人々が安心・安全に暮らせるように、商品やサービスを自主的、合理的に選べる環境を整える。それが消費者庁の任務だ。表示の義務化見送りはこれに反すると言わざるを得ない。

 「ゲノム技術による変異か、そうでない変異かを現在の技術で見きわめることは難しく、表示制度を設けても違反者を特定できない」というのが消費者庁の見解だ。業者の事務負担が重くなり過ぎないように考慮する必要もあるという。

 納得できない言い分だ。

 実効性が確保できないのでルール自体を設けず、業者の任意の取り組みに委ねるという理屈が、社会に受け入れられるとは思えない。また業者にとって、自らの商品に関する情報を把握し、消費者に正確に伝えるのは当然の務めではないか。

 こんな発想がどうして出てくるのだろう。昨年6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略」は、ゲノム編集食品を早く社会に出すよう関係省庁に求めている。その達成が至上命令になってはいないか。

 ゲノム編集技術は発展途上にあり、輸入品を含めてどんな食品が現れるか予想がつかない。EU司法裁判所が昨年夏、ゲノム編集食品も遺伝子組み換え食品にあたるという、厚労省とは異なる判断を示すなど、国際的な動向も一様ではない。

 ゲノム編集をめぐっては、国民の間に漠とした不安があることを示す東大チームの調査結果もある。本来は国が率先して調べ、誤解や偏見があれば丁寧な対話を通じて解消に努めるべきなのに、そうした動きは鈍い。

 良い商品を開発しても、社会に受け入れられなければ意味はない。消費者の視点に立って議論を進めることが不可欠だ。

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