(底流 2019参院選:5)「消費税廃止」、反緊縮の芽か
参院選では、10月に10%への引き上げが予定される消費税をめぐる論戦が注目を集める。消費税廃止や大規模な財政出動など「反緊縮」と言われる経済政策を前面に掲げる政党が現れたほか、既存政党にも「廃止」や「減税」を口にする候補者が出ている。
■立憲公約と違う主張 宮城
「消費税はゼロでいい」
11日夜、宮城県石巻市の個人演説会でそう訴える立憲民主党公認候補者の石垣のりこ氏の横で、会を主催した県連顧問の安住淳元財務相は苦笑を浮かべた。「懐深く受け止めていただいた」と石垣氏に水を向けられると、大きく手を振って「受け止めてない」と否定。集まった約400人から笑いがもれた。
党の公約は「消費増税凍結」だが、石垣氏は5月の立候補表明から「消費税廃止」を訴え続けている。立憲は消費税について「ゼロに今すぐするということは、現実的な政策だとは思っていない」(枝野幸男代表)という立場をとっており、石垣氏の主張に神経をとがらせる。
立候補表明の前日も、安住氏が石垣氏に電話で「党の公約と勘違いされ、問題だ」と1時間以上にわたって説得したが、石垣氏は持論を変えなかったという。
石垣氏の消費税廃止の主張は、「無責任」「世論受けを狙ったポピュリズム」との批判もつきまとう。
現在の消費税収は年間約20兆円。石垣氏の対抗馬で自民現職の愛知治郎氏は「消費税をゼロにしたら年金制度は破綻(はたん)する。無責任な政策だ」と批判を強めるが、石垣氏は所得税と法人税への課税強化をその財源にと訴える。
石垣氏が注目するのは、4月にれいわ新選組を立ち上げた山本太郎参院議員。消費税廃止に加え、全国一律最低賃金1500円を政府が補償することなどを公約に掲げる。
重なって見えるのは、欧米で活発化する「反緊縮」の潮流だ。前回の米大統領選で国民皆保険や高等教育の無償化、政府による雇用保障を掲げたサンダース氏が躍進したほか、英国のコービン氏ら同様の主張を掲げる政治家が耳目を集める。
無党派層の受け皿となることをめざしてきた立憲の幹部は「れいわに支持層を食われかねない」と懸念を漏らす。(井上充昌)
■「まずは財政出動を」 京都
こうした主張の底流にあるとされるのは、米国発の経済理論「MMT(現代貨幣理論)」。「自国通貨で借り入れができる国にとって、財政赤字は大きな問題ではない」と、財政再建とは距離を置く考え方だ。
MMTに接近するのは、野党だけではない。京都選挙区(改選数2)から3期目をめざす自民現職の西田昌司氏も今年4月、国会でMMTを取り上げた。
西田氏は、安倍晋三首相と麻生太郎財務相に「自国通貨でお金を出していけば、日本政府は破綻しない」と訴え、財政支出の拡大を求めた。5月に京都市であった国政報告会でも「消費増税で経済が落ち込めば、政権の屋台骨を揺るがす」と言及。「野党ではなく、与党の中から(反対の)声を上げなければならない」と主張した。6月の報道各社の取材では「消費増税(の是非)を問うため解散総選挙をすべきだ」とまで踏み込んだ。
だが、党が参院選公約に10月の消費税率10%への引き上げを明記したため、公示後はややトーンダウン。4日のJR京都駅前での出陣式では「私はできれば消費税は上げず、まずは財政出動すべきだという立場」と説明しつつ、首相が引き上げ後のさらなる増税について「今後10年間は必要ない」と述べたことを引き合いに「これは私が言ってきたことと一緒。あとは積極的な経済政策をやっていこうということ」と語った。
消費増税の是非が争点となる中で、自民候補が野党候補と同様に増税に否定的な姿勢を示していることに対立陣営は困惑気味だ。共産現職の倉林明子氏の陣営幹部は「自民党の公認候補なのにありえない。無責任だ」と批判している。(大貫聡子、河合達郎)=おわり
■宮城(改選数1)
三宅紀昭 57 諸新
愛知治郎 50 自現(3)〈公〉
石垣のりこ 44 立新〈国民〉〈社〉
■京都(2)
三上隆 88 諸新
西田昌司 60 自現(2)〈公〉
倉林明子 58 共現(1)
増原裕子 41 立新〈国民〉
山田彰久 38 諸新
(届け出順、年齢は投票日現在、カッコ内数字は当選回数、〈 〉内政党は推薦・支持)
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