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 貿易摩擦の暗雲が、主要国の中央銀行を金融緩和に向かわせ始めた。政策余地が限られる中で、摩擦をあおりながら緩和の圧力を強める米トランプ大統領の手法は、世界経済に不要なリスクを負わせるだけだ。

 米国が先週、10年半ぶりの利下げに踏み切った。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、世界経済の成長の弱さや貿易を巡る不確実性がもたらす下向きのリスクに「保険をかける」狙いと説明した。

 米経済は現時点ではほぼ順調だが、インフレ率が目標値を下回っていることもあり、先行きもにらんで予防的に手を打ったとの位置づけだ。連続的な利下げの始まりではないという。

 今回の決定には、トランプ大統領に振り回されるFRBの苦渋が浮き彫りになっている。

 まず貿易の不確実性そのものが、トランプ氏の保護主義的政策の帰結だ。なお着地点の見えない米中間の摩擦が、世界経済の不透明感の根源にある。

 加えて、大統領はパウエル氏の解任までちらつかせながら、露骨に利下げを迫った。FRBは強い独立性を持つが、人事などを通じて政府が影響力を行使することもできなくはない。

 パウエル氏は利下げ決定後の会見で「政治的配慮は全くない」と述べ、貿易についても、経済への影響を評価しているだけで、政策を批判しているわけではないと説明した。立場上はこう言わざるをえないだろう。

 一方のトランプ氏は、利下げ幅が不十分として「相変わらずパウエルにはがっかり」とツイートした。翌日には中国への第4弾となる追加関税を9月に発動すると表明。金融市場では大幅な株安や、リスク回避のための円高ドル安が進んだ。

 理由はどうあれ、今回の利下げが景気や物価の下支えになるのであれば、一定の意味はある。一方で、米国の株式市場は7月に史上最高値をつけるなど過熱気味だ。企業債務などを含め、金融面の不安定さが増す懸念も否定できず、貿易摩擦の「尻ぬぐい」のツケが高くつくおそれもある。

 対応を迫られているのはFRBだけではない。欧州中央銀行(ECB)も7月の理事会で近い将来の利下げを示唆した。米中摩擦も含め、円高が進みやすい環境にある。

 日本銀行は先週の金融政策決定会合で、物価安定目標に向けた勢いが損なわれる可能性が高まる場合には「躊躇(ちゅうちょ)なく、追加的な金融緩和措置を講じる」と表明し、予防線をはった。

 だが、実際に景気悪化や円高が進んだ場合に打つ手はあるのか。取り得る政策の利害得失について検討を急ぐ必要がある。

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