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 安倍首相には、核廃絶を求める被爆地からの切実な声が聞こえないのだろうか。そう受けとられても仕方のないやりとりが、今年の夏もまた、広島・長崎の被爆者や自治体トップと首相との間で繰り返された。

 「被爆者が生きているうちに核兵器廃絶の毅然(きぜん)とした態度を示してください」

 長崎市の式典で、被爆者代表として平和への誓いを述べた山脇佳朗さん(85)はそう訴えた。独学で英語を学び、海外でも被爆体験を語ってきた。

 首相はあいさつで、「核兵器のない世界」の実現に向けた努力を続けることがわが国の使命だと、改めて強調した。

 しかし、被爆地では首相へのいらだちと怒りが強まるばかりだ。「毅然とした態度」の象徴として、核兵器の開発と保有、使用などを幅広く禁止する核兵器禁止条約への署名・批准を求めているのに、首相が否定的な考えを示し続けているからだ。

 冷戦終結の呼び水にもなった米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約は、トランプ米政権の離脱で失効。米ロ間で核弾頭などの数を制限する新戦略兵器削減条約(新START)の存続も危うい状況で、核不拡散条約(NPT)準備委員会では核軍縮の進め方をめぐり核保有国と非保有国の対立が露呈した。

 「世界から核兵器をなくそうと積み重ねてきた人類の努力の成果が次々と壊されている」(田上富久・長崎市長)と危機感を強める被爆地の希望が、被爆者の訴えを原動力として誕生した核禁条約である。

 だが首相は広島、長崎両市のあいさつで今年も条約に触れず、記者会見では条約を「現実の安全保障の観点を踏まえていない」と評した。日本が米国の「核の傘」に守られているのは確かだが、条約に背を向け続けるだけでよいのか。

 広島県の湯崎英彦知事は、核保有国が力を持つ現状について「『現実』という言葉の持つ賢そうな響きに隠れ、『現実逃避』しているだけではないか」と指摘した。一方、核廃絶を目指す核禁条約は、2年前に国連で122カ国が賛成して採択された後、批准国も少しずつ増えており、条約発効に必要な50カ国の半数になった。

 政府は核保有国と非保有国の橋渡しをするとして、内外の有識者を集めた「賢人会議」を主催してきた。しかしどう役割を果たすのか、見えないままだ。

 首相と面会した長崎の被爆者団体代表は「橋渡しを言うなら核保有国と交渉すべきだ。言葉だけで何もしていない」と批判した。米国に追従するばかりでは、唯一の戦争被爆国としての信頼すら失いかねない。

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