銃による米国社会の悲劇が止まらない。テキサス州とオハイオ州では今月、半日のうちに続けて乱射事件が起きた。計31人の命が奪われた衝撃は大きい。
テキサスでの犯行の動機は、移民への憎悪だったとされる。容疑者は「移民による侵略」への反撃だと主張したが、その言葉遣いは、トランプ大統領がかねて繰り返したものだった。
事件後、大統領は「わが国に憎悪の居場所はない」と演説したが、自ら反移民感情をあおってきたことへの反省の弁はない。現地を慰問した際、市民がデモで大統領に抗議したのは当然の怒りの表現だろう。
必要なのは本格的な銃規制である。しかし今回も、大統領が真剣に規制に動く気配はない。電子ゲームが暴力を助長しているなどと主張し、根本的な対策を避けている。
社会に広がる少数派への憎悪と、4億丁近く流通する銃器。米国が抱える二重の病巣に向き合わない限り、悲劇は続く。
米国内では、1日あたり約100人が銃器で死亡している。殺人事件全体でも、銃による犠牲者が7割を超し、先進国のなかで突出している。
今回のオハイオの事件では、乱射開始の約30秒後には警察官が容疑者を射殺した。それでも9人が犠牲になった。高速連射が可能な半自動小銃が使われたためとみられている。
合衆国憲法は、武装して自衛する権利を認めている。だが、戦場で使われるような連射銃まで認めるのは異様だ。ネット取引が増えるなか、銃購入の身元チェックの緩さも指摘される。
各種の世論調査では、あらゆる銃規制に反対する米国民はむしろ少数派だ。本格的な銃規制立法をはばんでいるのが、全米ライフル協会(NRA)に代表される銃産業の政治力だ。
しかし凶悪化は進んでいる。米国の乱射事件の死者数ワースト10のうち、今回のテキサスを含めて8件は、この10年間に起きた。このまま無策を続けることは許されない。
連邦議会では、わずかながら前進の兆しがみられる。高リスクの人物を対象に、当局が銃所持の禁止命令を出しやすくする立法措置が検討されている。銃規制に消極的な与党共和党が多数を占める上院も通る可能性が出てきた。
ただし、それでは全く不十分だ。身元チェックの義務化や、殺傷能力が高い銃の禁止など、かつて存在した規制の復活をまず急ぐべきだ。
トランプ氏は既得権益層に挑むと約束して大統領になった。旧来の力をふるう銃ロビーに切り込まずに、改革者を装うのは国民への背信行為である。