[PR]

 紛争の発火点として知られるカシミール地方をめぐり、大国インドが一方的な行動に出た。核保有国同士で対立するなか、無責任というほかない。

 インド政府が、ジャム・カシミール州で70年続いていた自治権を奪い、直接統治を始めた。地元との話し合いもなく、唐突に大統領令を出し、与党が多数の国会で憲法を改正した。

 隣国パキスタンは外交関係を縮小し、軍に厳戒態勢をとらせた。カシミール地方の一部を支配する中国も「受け入れられない」と反発している。

 インド政府は「内政問題だ」と反論しているが、歴史を振り返れば、決してそれで済まされる話ではない。ただちに自治権を元に戻すべきだ。

 1947年にインドとパキスタンが分離独立して以降、カシミール地方の帰属問題は紛糾した。両国は3度戦火を交え、その後も衝突が断続的に続く。インドは中国とも戦争をした。

 ジャム・カシミール州では、多数派のイスラム教徒がパキスタンへの帰属を望んでいた。しかしヒンドゥー教徒の藩王はインドへの併合を選んだ。この州に特別な自治権を与えたのは、統合に伴う混乱と不安定を避けるための知恵だったはずだ。

 インドは今回の大統領令と前後して、州と外部との通信を絶ち、地元の政治家ら数百人を拘束した。数万人の兵士の派遣も決めたという。

 予想される反発を力で抑え込もうとしているが、治安の面からは逆効果だろう。13億を超すインドの人口の1割以上はイスラム教徒だ。カシミールのみならず、全土でテロなどの危険性が高まる恐れがある。

 さらに国外からの投資が手控えられるなど経済への悪影響も予想される。代償の大きさをインド政府は直視すべきだ。

 モディ首相と与党・人民党はヒンドゥー至上主義を掲げる。カシミールの直接支配は、かねて悲願として訴えていた。

 イスラム過激派の活動が、この州を拠点にしてインドの安全を脅かしている、と主張。今春の総選挙でも直接統治を公約に掲げ、圧勝したことから踏み切ったとみられる。だが多民族、多宗教の大国を多数派に偏った政策で統治すれば、インド国内の政治にもひずみを生む。

 なにより、カシミール地方を争う3カ国はいずれも核保有国である。軍事紛争に発展すれば、南アジアの平和にとどまらず世界の安全にとっても重大な問題となる。

 日本を含む国際社会はインドをはじめ関係国に最大限の自制を求めるとともに、国連安保理でも緊急討議して、緊張悪化を避ける方策をとるべきだ。

こんなニュースも