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 人類を月に送ったアポロ計画のように、実現すれば大きな誘発効果が期待できる「ムーンショット型」研究開発の候補として、政府の有識者会議が先月末に25のプランを示した。

 農林水産業の自動化や建設工事の無人化、ゴミ廃絶、人工冬眠技術の確立などが並ぶ。今後これらを5~10に絞るという。

 めざす未来像を描き、逆算して、いま何をするかを考える。その試みは良いとしても、上滑り感は否めない。目標達成は2035年~60年とかなり先なのに、予算は5年間で約1千億円と聞けば、中途半端さに首をひねる人も多いのではないか。

 手本は、プロジェクトの人選や運営を特定の人物に一任する米国防総省傘下の研究組織のやり方だ。だが大学や企業、研究機関の間で人材が行き来する米国流がどこまでなじむか。膨大な資金がつぎ込まれ、秘密裏の研究も多い軍事関係の機関が、公開を原則とする日本の範となり得るのかは疑問だ。

 プランには、がんの克服や認知症対策など、直面する課題は盛り込まれなかった。既存の研究との重複を避けたというが、こうしたテーマにこそ資源を重点的に投じるべきだという声もあるだろう。

 飛躍的な技術革新を狙った事業としては、5年間で550億円を投じた「インパクト」構想がある。「カカオ成分の多いチョコレートで脳が若返る」などと、根拠が不十分なまま成果を強調するものもあって不信を招いたが、政府は一定の成果をあげた研究もあるという。

 だとすれば継続して支援する必要はないのか。この先どんな展望が見込まれるのか。看板を換えて同じような政策を進めることを政権は繰り返すが、ここは丁寧な説明が求められる。

 担当する内閣府をめぐっては昨年、別の産官学連携事業で、責任者を公募で選んだといいながら、実際は役所が候補に挙げた人物をそのまま多数起用していたことが発覚した。

 どんな研究が革新をもたらすか予測するのは難しく、政府が上から課題を決め、多額の予算を割り振ることへの疑問や異論は少なくない。加えて手続きが透明性・公平性を欠けば、不信は膨らむ。心してもらいたい。

 25のプランの中には「ノーベル賞級の発見を自律的に行う人工知能の開発」といったものもある。だが社説で指摘してきたように、「ノーベル賞級」の成果を生みだすためには、基礎研究の積み上げとそれを担う若手研究者の育成が不可欠だ。

 聞こえのいいスローガンを掲げて足元がおろそかにならないよう、基本施策や予算配分のあり方に目を凝らし続けたい。

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