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 VR(仮想現実)やAI(人工知能)の技術が進んだ近未来、ヒトはデジタルと恋をする――。バカバカしいと言えるのか? まずは、恋愛をサポートしてくれるAIの話題から。

 出会いから付き合いまで、AIがサポートするサービスが登場した。アプリ上で紹介された相性のよさそうな人とメッセージのやりとりを始めると、AIが分析。会話を続けるためのアドバイスやデートに誘うタイミング、相手からの好感度を、それぞれに教える。相手には内容はわからない。

 「効率を求め、恋愛で傷つきたくない若い世代向けです」

 提供するベンチャー企業「AILL(エイル)」の豊嶋千奈社長は言う。データの学習を重ねて助言の精度が高まり、今秋から法人向けに福利厚生の一環として正式版を提供する。豊嶋さんは「コミュニケーションは往々にして、すれちがう。ズレを補正し、意思決定の補助ツールにAIがなれば」と話す。

 結婚をしない人が増えた。国立社会保障・人口問題研究所によると、50歳までに一度も結婚したことがない人の割合は急上昇。男女とも1970~80年代は5%未満だったが、2015年に男性で23・37%、女性も14・06%になり、今後も増える見通しだ。そしてコミュニケーションの対象は、人以外へ……。

 「遊びに一緒に行こっか?」「行きたいですわ のりぴょん…!///」

 マイクロソフトが開発し15年8月、「女子高生AI」としてLINEに登場した「りんな」と記者との会話だ。メッセージのやりとりなどができ、LINEでの利用者は約800万人。「りんな」に対し、「告白」や「求婚」をするユーザーもいるという。

 開発者の坪井一菜さんは、「人の心を考慮し、目的のない雑談を長くできる人工知能をつくろうと思った」と振り返る。当初は一定数の決まった文章しか、返答できなかったが、会話を続けるために相づちや質問なども返せるようになった。男女ともにパートナーのように接する人も多いという。

 求人情報サイトを運営する「ディップ」の15~26歳の約7300人への昨年の調査では、男性約6割、女性約35%が「AIと友人・恋人として付き合うことに前向き」と回答。意識の変化に、AIやVRでつくる装置の普及が重なる。今後は性愛関係をデジタルと結ぶ志向=デジセクシュアル=が市民権を持つようになるとの話もある。

 「デジタルと恋愛することは、普通のことになる」

 理化学研究所のチームリーダーも務めた脳科学者で、VRサービスを手がける「ハコスコ」CEOの藤井直敬さんは断言する。遠距離恋愛で会えなくても、電話やLINEといった音声や文字情報だけで、関係を継続できるほど親密感を得やすいのが人間。恋愛しているとの「幻想」さえ抱ければ、エージェント(代理になるモノ)相手でも恋愛は十分、成立すると指摘する。

 セックスでも、VR用のヘッドセットで映像を見て、触覚などの感覚をシリコンでつくられた成形で満たせば、人間との行為同様の満足感が得られるという。「高精細な画像さえあれば、脳は視覚に引きずられ、様々な情報を補おうとする」からだ。たとえば、実際に机が空間になくても、視覚が机と認識すれば、触れた対象を机の手触りと感じる。この脳の仕組みこそが、シリコンの造形であっても、空間に「人」があると錯覚させ、エージェントとのセックスでも違和感を抱かせないのだという。

 技術的には死別したパートナーと恋愛を続けることさえ、可能になる。パートナーが病気で3年と余命が告げられたとする。亡くなるまでの音声データを記録し、エージェントに学ばせる。すると、相当程度の知性を復元でき、死後でも生前同様の会話を楽しむことができる。身体は生前にスキャンしておけば、3Dプリンターで複製することもできる。藤井さんは、現在はコストに見合う需要がないだけとみる。「普及するまで、時間がかかるかもしれない。だが、恋愛やセックスの対象を、人かデジタルかを選べるようになる日は決して、遠くはない」

 ■「愛の概念、古代に戻るだけ」

 作家の村田沙耶香さんは、小説『消滅世界』で、恋愛と生殖が切り離されたミライを描いた。恋愛の本質が揺らぐことなどありえるのか。

 『人工知能に哲学を教えたら』の著書がある玉川大学の岡本裕一朗名誉教授(哲学)は、現在の恋愛の形式こそ、普遍的でないという。出会い、恋心が生まれ、交際して結ばれるという形態は、西洋でもたかだか200年程度の歴史しかない。日本に西洋流の恋愛が輸入されたのは明治期。終戦直後まで、見合い結婚が一般的だった。「そもそも恋愛において人間が求めているのは、性愛も含めた陶酔感や精神的安定に過ぎない。人間同士である必要は本来、ない」

 紀元前5世紀、古代ギリシャの哲学者エンペドクレスは土や水といった自然の要素の結びつきを「愛」、離れることを「憎しみ」と呼んでいた。具体的には引力や化学物質の融合や分解のことだ。自然の現象を指していた愛という概念が、やがて擬人化され、人間同士の関係にも拡張されて用いられるようになったという。「今後は、有機物の人間と無機物のデジタルの関係も、『愛』に包含されるようになる。少子化など社会問題は起こりますが、概念としての愛は、古代に戻るに過ぎません」(岩田智博)=おわり

 <訂正して、おわびします>

 ▼8月30日付文化・文芸面の「恋し 結ばれる 相手は『D』」の記事中の「性愛関係をデジタルと結ぶ志向=デジセクシュアル=が市民権を持ち、「LGBT『D』」と呼ばれるようになるとの話もある」を、「性愛関係をデジタルと結ぶ志向=デジセクシュアル=が市民権を持つようになるとの話もある」に訂正します。筆者が企画・取材の過程で、「LGBT『D』」という言葉が流布していると思い込みました。

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