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 多くの香港人が抗議の声を上げ続けている。中国政府と香港政府が今なすべきは、形式上の譲歩ではない。問題の本質に向きあい、自由と自治を尊重する改革こそが求められている。

 香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、市民の抗議運動の発端となった「逃亡犯条例」改正案の正式撤回を表明した。デモが本格化してから3カ月近く。事態は悪化の一途をたどっており、あまりに遅きに失した対応である。

 この間、多くの市民と警察との衝突が繰り返されてきた。社会や経済に大きな影響を与えているだけでなく、当局に対する市民の不信も増幅した。

 香港政府が当初から抗議の主張に耳を傾け、対話を進めていれば、ここまで事態はこじれていなかっただろう。混迷の大きな責任は政府側にある。

 林鄭氏はテレビ演説で「対決を対話に変えるよう望む」と訴えた。しかし、もはや改正案の撤回だけで混乱を鎮められるかどうかは不透明だ。

 デモの要求は今では5項目になり、警察の暴力行為を検証する独立調査委員会の設置や、民主的な選挙制度の導入なども求めている。改正案の撤回は、中国と香港政府にとって最もハードルの低い譲歩でしかない。

 そもそも市民を大規模デモに駆り立てた根源にあるのは、香港社会が中国共産党体制に完全に取り込まれてしまうのではないか、との危機感であろう。

 香港は英国統治下の時代から自由の気風が根づき、市民の平等を重んじる司法制度のもとで経済発展を遂げてきた。その歴史を踏まえ、中国政府は1997年の香港返還の際、「一国二制度」を約束した。

 ところが次第に「一国」だけが重視され、「二制度」がなし崩しにされていると思うほかない動きが相次いだ。言論の自由や企業の経済活動への有形無形の圧力である。

 今回の混乱の経緯をめぐっても、香港政府が中国政府の抗しがたい支配下にある現実を露呈した。共産党の判断がすべてに優先される社会に変質していくことを多くの香港人たちは恐れ、拒否感を強めている。

 中国政府は10月1日の建国70周年までに事態を収拾させたい考えと伝えられる。政府幹部らは武力行使などの直接介入の可能性を否定しないが、そうした強権的な威圧はすぐにやめるべきである。

 林鄭氏は演説で、社会各層との対話を進める枠組みを新たに設ける方針も表明した。いかに民意を受け止め、政策に反映させるか。民主的な選挙制度の導入も含め、早急に話しあいを進めていくべきだ。

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