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 議会制民主主義の模範といわれる英国の政治が、混迷の度を深めている。欧州連合(EU)から離脱する道筋を決められないなか、首相が独断を公然と宣言する事態になっている。

 この7月に就任したばかりのジョンソン首相である。型破りな行動で知られてきたが、自分の考えを押し通すためには三権分立の原則も軽んじる政治家であることがわかった。

 「現政権はこれ以上、離脱を延期しない」。首相は今週、議会の閉会を前に言い切った。しかし、議会はEUとの合意がないままの離脱を阻む「離脱延期法」を成立させたばかりだ。

 議会の閉会も、審議の期間を削るために首相が申し立てたものだった。造反した与党議員には党の除名処分も科した。

 立法府をないがしろにし、行政府で脱法的に突き進むのは、英国自ら「民主主義の模範」の看板を下ろすことに等しい。

 離脱をめぐるEUとの合意案はメイ前首相がまとめたが、議会は3度否決した。今の新たな離脱の期日は10月末である。ジョンソン氏はそれまでに新たな合意をつくるというが、現実的には至難の業だ。

 議会が下した延期の判断は至極まっとうである。首相はその法律の縛りを脱する奇策づくりに走るのではなく、EUと議会とに虚心坦懐(たんかい)に向きあい、穏当な落着点を探るべきだ。

 英国が国民投票で離脱を選んでから4度目の秋である。それ以前から続く「決められない政治」の迷走は、英国と欧州などを振り回してきた。

 ジョンソン氏が自らを「真の国民の声」だと断じるのは無理がある。世論調査では「合意なし離脱」への反対が44%と、賛成の38%を上回った。国民は今も割れているのだ。

 ジョンソン政権は、まだ選挙を経てもいない。首相が総選挙でまず信を問おうとしていることは理解できる。だが、10月末の離脱期限前に実施しようというのでは乱暴に過ぎる。いまは議会の意思に従い、まず離脱を延期してからの話だ。

 英国にフランスなどは不満を示し、期限の再延期への嫌気感も漂う。だがここは辛抱強く延期を認めてもらいたい。統合する欧州が英国を含むか否かは重大な分岐であり、時間をかけるに値する問題だ。欧州と英国との対話力が試されている。

 ジョンソン氏はかつて、尊敬する英宰相チャーチルの伝記を記した。宰相の名言の一つはこうだ。「勇気とは、立ち上がって演説するだけでなく、座って耳を傾けるためにも必要だ」

 強行突破の蛮勇はいらない。議会、国民、EUと、熟議を交わす知勇こそを見せてほしい。

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