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 公正な選挙を通じて、市民が自らの手で代表を選ぶ――そんな民主主義の基本を忘れているのではないか。ロシア各地で今月に行われた地方選をみると、疑念は募るばかりだ。

 モスクワ市議選では、プーチン政権を正面から批判する候補者の多くが、書類の不備などを理由に立候補を認められなかった。市民らによる抗議デモを、治安部隊が弾圧した。

 そうした手段を駆使しても、与党系は5年前の前回より大きく議席を減らした。

 一方、ロシア連邦を構成する自治体のうち16カ所であった首長選挙では、与党系の候補者が全勝した。だが、額面通りには受け止められない。

 政権は、現職16人のうち13人を選挙の1年ほど前から次々に事実上解任した。意中の新顔たちをあらかじめ首長代行に就任させた上で選挙に臨んだ。現職への信任投票という構図に持ち込み有利な状況をつくった。

 ここには、与野党候補の公平、公正な論戦の機会を確保して有権者の判断を仰ぐという姿勢は見られない。政権が候補を指名し、形だけの選挙で追認させればよいと考えているとすれば、ソ連時代に逆戻りだ。

 21年の下院選で政権与党の多数を維持し、24年の大統領選でプーチン大統領が指名する後継者を勝利させる。透けて見えるのはそんなシナリオだ。

 しかし、民主主義の国で次の指導者を選ぶのは国民であって大統領ではない。大統領の責任は、公正な選挙が行われる条件を整えることにある。

 プーチン氏は6月には「リベラルな理念は時代遅れになった」と主張した。国家権力の役割は、安定を保障することだとも語った。強権的な政権運営を正当化するかのようだ。

 確かに、ソ連崩壊後に続いた混乱を立て直したのはプーチン氏の功績だろう。だが、プーチン体制が発足してもう約20年。社会には閉塞(へいそく)感が漂う。

 今回のモスクワ市議選の投票率はわずか約2割だった。国外移住を望む若者が4割を超えるという世論調査もある。

 プーチン氏は00年、大統領就任を前にドイツのコール元首相について「1人の指導者が16年も続けば、どんな国民でもうんざりする」と述べていた。この言葉をもう一度思い起こすときではないか。

 ロシアが外敵に囲まれているという危機感をあおって求心力を高める政権の姿勢も危うい。昨年の大統領選では、クリミア併合の日を投票日に選び、愛国心を高めようとした。こうした手法は地域の緊張を高めるばかりで、ロシア自身のためにもならない。

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